6月3日、作品の“聖地”である埼玉県・飯能市の飯能市市民会館で開催された「『ヤマノススメ』 公式 ファンミーティング」にて、ファン歓喜のOVA発売&劇場上映&18年、TVアニメシリーズ第3期の放送決定という2大ニュースを発表した『ヤマノススメ』。

 TVアニメ第2期の放送終了から約2年半。続編制作の決定にこぎつけるまでに、果たしてどんな過程を踏んだのだろうか?

 TVアニメシリーズ第1期よりプロデューサーを務める後藤裕氏に、話を聞きました。

『ヤマノススメ おもいでプレゼント』キービジュアル

■「監督が心配して、『俺がやろうか?』と」

―― 続編を作ろうという野望・展望は、いつごろから存在したものなんですか?

後藤裕プロデューサー(以下、「後藤」) TVアニメの2期が終わった時点ではぶっちゃけ調整できてなかったんですよ。個人的には「やりたいです」と言っていたんですけど、その当時はエイトビットさんにも山本裕介監督にもやり尽くした感があったので。

『ヤマノススメ セカンドシーズン』第23話より

―― 2期の終盤は物語的にもきれいなクライマックスを迎えましたものね。

後藤 はい。それで3期の話がなかなか調整できないまま、2期に関連するイベントが終わっちゃったんですよ。

それでも僕の中ではずっとやりたいと言う気持ちがあって、定期的にはお話しはしていたのですが……あと、山本監督ももうこれ以上は山に登りたくないと(笑)。

―― もうロケハンに行きたくないと(笑)。

後藤 この作品は山に登ってちゃんと取材して、というスタイルで作ってきたので、スタッフが山に登らないといけませんから(笑)。

それでも何度かアプローチは続けていたんですが、やっぱりエイトビットさんは実力も人気もあるスタジオさんですから、そもそもスケジュールも空いていない(笑)。これはダメかなぁと思っていたんですが、山本監督とは個人的に何度も飲みに行ったりしていたんです。

―― 個人的なつながり、信頼関係が構築できていたんですね。

後藤 はい。そして、2期の制作が終了して山本監督にもイベントに登壇していただくようになって、そこで「3期を早くやってくれ」というファンの声に触れて。

また、こちらとしては3期をやりたい気持ちがあってもスタジオに空きがないし、まあしょうがないなと、そんな感じでこっちがあまり動けていなかったから、監督に心配されるようになったんですよ。

―― ファンの熱意にほだされたわけですね。

後藤 そうそう。食事しながら、『ヤマノススメ』はやった方がいいよと、何なら俺がやろうか、とついに言ってくれたので、そこから具体的に動き始められたという感じですね。

―― それはいつ頃のお話ですか?

後藤 1年半くらい前でしょうか。去年の夏、監督と一緒に台湾へ行ったんですが、その時はもう完全にやる気に監督がなってくれていましたから。帰国してきてからスタッフさんたちとの打ち合わせを始めたんです。

―― アニメの続編を作ろうという場合、やはり制作資金を集められるかどうか、前シリーズの売り上げが重要だと思いますが。

後藤 そこはね、なんか後で考えようみたいな感じでした(笑)。

最悪、弊社(スマイラル・アニメーション)だけででも、と思っていました。

『ヤマノススメ』は、原作コミックの出版元であるアース・スター エンターテインメントからBlu-rayやDVDをリリースしていまして、僕もアニメ1、2期はアース・スターの社員PDとして関わったんです。ところが社内の異動で、スマイラル・アニメーションへと移って、3期ではスマイラル・アニメーションの人間として製作に関わることになりまして。

 同じグループ企業の傘下ですが、スマイラル・アニメーションは、アース・スターよりも映像事業に特化しようというレーベルなので、動きやすくなったという一面がありますね。

『ヤマノススメ』第1期キービジュアル

―― 具体的な数字は触れないとしても、第1、2期のBlu-ray、DVDの売上げはいかがだったんですか?

後藤 1期は5分アニメとはいえなかなか売れました。

その後、さらに新装版(Blu-ray:4,000円 DVD:3,000円/税別)を廉価でリリースできて、おかげさまで今でも地味に売れ続けてくれています。

 2期も大体同じくらいの数ですね。弊社としては合格点なんですけど、委員会としては「売れたからやりましょう」ともろ手をあげて3期へ、という数字ではないです。誰かが言い出だせばやろうかな、ぐらいで。

 一方でグッズはずっと売れ続けているし、ふるさと納税(埼玉県・飯能市)のお話もいただくし、ラジオも応援してもらえるし、何だかんだでずっと動き続けている。

ここまでくると、なんかこのまま終わらすのはもったいないよねっていう気運が委員会の中で高まりまして。

―― 昨今は配信も重要だと思いますが、配信事業のほうはいかがだったんですか?

後藤 5分とか15分の短い作品は、配信や海外であまり高額で買われないんですよね。

作品のクオリティがどうこうではなく、ショートアニメ自体の扱いがあんまりよくないんです。それでもヤマノススメは徐々に引き合いが増えていって最終的には何十カ国かで放送・配信していますけど。

 ショートアニメは、再生回数自体は伸びたりするんですが、やはり配信業者にとってもショートアニメのプライオリティーは高くありませんから、どうしてもパッケージで勝負というところがありますね。単価も高いですし、会社にとっては重視するポイントです。

■待ち構えていてくれた飯能市&石井スポーツ

―― 先ほどのお話にも出ましたが、イベントを展開したり、グッズを頻繁に発売されていたのが印象的です。

後藤 イベントはいうほどでもないと思いますよ。公式としては先月(6月3日)の「『ヤマノススメ』 公式 ファンミーティング』が、久しぶりのイベントでしたから。これはもうTVアニメ第3期&OVA制作という大ニュースを発表するためのものですし。

 その前、3月のイベント(『ヤマノススメ』イオンシネマプレミアム上映会&トークショー)は、イオンシネマさんがやりたいということで仰ってくれて、進めていただいたものなんです。

以前、2期の一挙上映をやらせてもらったんですが(14年9月24日、イオンシネマ板橋)、動員もよく、会場でグッズも売れたみたいで、それまでにイオンシネマさんでやってきたイベントの中でもかなり数字が良かったらしいんですよ。

 それ以来、『ヤマノススメ』にいい印象をずっと持ってくださっていて、またなにかやりましょうよと仰ってくれていたのが、今年3月のイベントにつながったんです。

―― そういった製作委員会の外からの引き合いは結構多かったんですか?

後藤 そうですね。飯能市のみなさんが市のお祭り(「飯能納涼花火大会」など)に招いてくれたりとか、製作委員会主体ではないケースも多かったです。

―― 地元とがっちり結びついた印象がありますが、最初からそういう狙いだったんですか?

後藤 それはそうですね。僕は大河ドラマが好きなんですが、舞台になった土地へ行くと盛り上がっているじゃないですか、去年の『真田丸』の信州しかり。

やはり映像に携わっている者としては夢なんですよ、何かしら人の役に立てられるというのは。もちろん、儲かりたいというのもありますけど(笑)

どこかでやっぱり自分を作っているもので地方などに貢献したいというのが心のどこかにあって。アニメ化が決まった時にすぐに電話したんです。

―― それは飯能市の観光課などですね?

後藤 はい、ドキドキしながら電話したら、ちょうどお隣の秩父市が『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』で盛り上がっていて、飯能市さんはそれを横目で見ていたものだから、「キター! ウチにもアニメが!!」と、最初からノリノリで対応してくれまして。

 いやそんなに盛り上がられても、こっちは5分アニメなんで、と言ったんですが、とにかく歓迎してくれました(笑)

最初はお互いにお金ががかからない範囲で、作品を宣伝していただいたり、取材にご協力いただいたり、というレベルでした。

ところが、放送が始まったらファンの方が飯能市を訪れるようになって、それに町の人が気づいて、そこからですかね、本当に盛り上がったのは。

―― 自分は趣味で登山をするんですが、3期の発表前の今年春も、市内にはあちこちポスターがあるし、等身大パネルを飾っている店舗も多くて。放送終了から2年以上経っているのに、まだ『ヤマノススメ』は飯能で現役なんだと実感しました。

後藤 何も音沙汰ない2年間ぐらいを、町の商店街の方たちやファンの方たちが『ヤマノススメ』をつないでくれていたというか。ありがたいなぁと思います。

お店の方なんかも、当初はやはり半信半疑だったんですけど、実際ファンの方が現地へ来てくれましたから。そこで皆さんが受け入れる体制を作ってくれて、ファンとお店の方がすごく仲良くなったりされていましたからね。

 それに飯能市の担当の方とは、本当に試行錯誤しながら色んなことをやっていただきましたし、ふるさと納税とか企画していただきましたし。あとは、アニメにもちらっと出ていますけど聖望学園の新井先生にもお世話になりました。

―― 新井先生はTwitterなどでもマメに言及されているし、熱い記事を書かれたりもしていますよね。

後藤 ファンの方をや商店街の皆さんをまとめていただいたり、すごく応援してくださるので。学校の先生にそこまでやっていただいていいのかな、なんて思いながら(笑)、甘えさせてもらいました。

―― グッズを手掛けている企業さんも多いですが、特に石井スポーツさんが品数も豊富です。

後藤 少しでも作品を広げたいので、ちょっとでも関係ありそうな所に電話したんです。僕自身は山の知識が全然なくて。

 そこまでファンの方がガチで山登りするとは思ってなかったんです。でも石井スポーツさんが作ってくれた登山中に使えるグッズを並んで買ってくれているのを見て、グッズはちゃんとしたものがいいんだなと。

―― 登山そのものには興味がなかった?

後藤 なかったんです。知識がないなりに調べて、登山グッズを手掛けているメーカーさんやショップさんに、作画の資料として道具を貸してくださいとか、グッズを一緒に作りませんか? と、ひたすらあちこちに電話しまくりまして。

石井スポーツさんには2期の放送直前ぐらいにお電話したんですが、「電話してくるのが遅いです」と叱られました(笑)。

―― 待ち構えていられたと(笑)。

後藤 なんで他のショップさんやメーカーさんにあたってから電話するんですか、もちろんやりますよと(笑)

今では一番熱心に取り組んでいただいているかもしれません。ご担当さんがアニメが好きな方で、「ぜひやります」「グッズを作ったら絶対売れます」と、社内でいってくれたみたいなんです。

 グッズは数多く出してきましたけど、1期では山メーカーさんとのコラボグッズは、モンベルさんと作ったカラビナぐらいしかなかったんですが、これが速攻売れたんですよ。