東京都内の公立図書館で相次いでいる『アンネの日記』や関連書籍が相次いで、ページを破られる被害に遭っている事件。現在まで、これと同様な事件は東京都内の公立図書館でなんと250冊以上が破られた被害に遭っていることも判明済みである。

4月20日には、アメリカのユダヤ人人権団体「サイモン・ヴィーゼンタール・センター」が日本の当局に犯人を特定するように求める声明を発表。これを受けて、管義偉官房長官が記者会見で「我が国として受け入れられるものではなく、きわめて遺憾」とコメントするに至っている。

 また一気に国際問題にまで発展したこの事件。ところが、当の図書館関係者からは「過剰反応では?」と戸惑いの声が挙がっている。本サイトの取材に応じた、都内の図書館関係者は語る。

「『アンネの日記』が、破損される事件は今に始まったことではありません。私が図書館に就職した1980年代には、そういったことはよく起こると、関係者の間では話されていました」

 この関係者によれば『アンネの日記』とヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』は、図書館関係者の間では、昔から破られる被害の多い本だという。

「やはり、“ナチズム”や“ホロコースト”は特定の精神的構造を持った人を引きつける要素が強いんじゃないかと思います。私も過去に、図書館内でホロコースト関連の本を破っている人を見つけたことがありますが、その人物は刑事事件の責任能力がない人でした」

 詰まるところ、精神医学的に“コダワリ”の強い人の犯行なのではと、図書館関係者は経験則から指摘をする。だからこそ、この事件にはコメントし辛い。その結果、これは国際問題なのか、または多様な考え方からの行動の違いということだけなのか、というような妙な状況になってしまっているのである。

 ちなみに、同様の図書館関係者しか知らない「あるある」はほかにもある。なぜか、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』は、毎年補充しなければならないほど、盗まれることの多い本の中の一冊なのだとか。

『アンネの日記』といえば、ホロコーストより生還した父親の手による編集を経て、今や「世界の記憶(世界記憶遺産)」とまでなった。ともすれば、中二病的な日記ゆえに、中二病をこじらせた現代日本の若者(突然、意味もわからず『我が闘争』とか読み始めたりするような)が、ナチス賛美の挙げ句にやっているのかと思えば、実態はもっとナイーブなものの様子。「国際問題」、「人種差別」と騒ぎは大きくなっているが、早期の真相解明が求められている。

(取材・文/昼間 たかし)