
鳴り物入りで登場してから数年を迎えた、文苑堂のエロマンガレーベル。正直、業界内では編集の力量から、単行本ごとに当たり外れが多いのではないかという風聞。明確に、出版社の色を打ち出すことはできていないのは確かだろう。
方向性としては、迫力で魅せるワニマガジン、ジーオーティーの方向に行きたいのだろうけど、どこかマニアックな泥臭さ的な、なにかがあるような。ただ、編集者の閃き次第で描き手もレーベル自体も急激に化けるものだから「この出版社はダメ」なんて判断することはできない。
そうした中にあって、かねことしあき氏の『ママは僕のもの』は、相当なアタリだと思った。
本作に収録されているのは、すべて母親と息子との近親相姦ものである。エロマンガでは定番のインモラルな設定。わかりやすい反面でともすれば凡庸になりがちな物語を、かねこ氏は見事なまでに淫猥に描き上げている。
各作品において、かねこ氏が上手いのは、息子の母親に対する嫉妬と慕情とを丁寧に描いているところ。
決して「劣情」ではない。母親に対する愛情が深すぎるあまりに気持ちを抑えられなくてセックスに至るという必然性をきっちりと描いているのである。収録作は中編3本、短編1本の構成であるが、それぞれに母親への想いが炸裂する理由だとか、そこに至る背景がきっちりと描かれている。
まず、息子と同じ気分にシンクロして楽しめるのが中編「ママは渡さない」。これは、シングルマザーだった母親が再婚することが決まり、相手の男に嫉妬するあまりに、母親を犯して自分のチンポに染めていく息子の物語。この作品、ちゃんとページを割いて次のようなネームと文字とが綴られる。
「母さんがあの男を紹介した日から…… 僕が居ない時あいつが来るようになって だんだんと来る回数が増えて…… そして…そして母さんは あんなっあんな顔をして!」
一般常識として、連れ子との関係構築というのは難しいもの。ましてや、思春期の息子がいる女性との再婚なのに、暇を見つけてサカってたら、息子がキレるのは当然。この近親相姦は、盗んだバイクで走り出したり、金属バットを振り回すのと同じようなものであろう。
実用面でのエロスは当然丁寧に描かれているが、このシーンがあるから、余計にエロく感じるというわけである。
そして短編「ママのためなら」も、やはりネームが生きる作品。この作品に登場する母親は、けっこう人生に行き詰まっている感がある。
「シングルマザーになって8年 子供も手がかからなくなって 仕事もがんばって増やしてみたけど 疲れて……満たされなくなって…… ここでまた一人で……オナニーしてしまう」
相当人生に負荷がかかってるのか、洗濯場でオナニーという軽い変態行為だけが拠り所になっているのが、高ポイント。おまけに着ている下着が、ただただ地味というのも、また。
息子チンポで目覚めという定番設定でわかりやすいのに、技巧によって深みを生み出している作品集。このテクニック、恐るべし。
(文=ピーラー・ホラ)

『ママは僕のもの』
ページ数:240ページ
筆者:かねことしあき
出版社:文苑堂