現在でも日本のアダルトビデオでは、局部にモザイクを入れるなどして自主的に表現を規制することが前提となっている。しかしこうした“自主規制”は、人類の叡智に寄与する学術研究であれば、その限りではないはずなのだが、なんと16世紀の医学書で“自主規制”が行なわれていたのである。

■人体解剖図の“肝心の部分”が切り抜かれていた
先の3月25日にイギリス、ケンブリッジ大学(セント・ジョンズ・カレッジ)での企画展「Under The Knife At St John’s: A Medical History Of Disease And Dissection」で出展・公開された16世紀の解剖学書が話題になっている。女性の身体の解剖図において“肝心な場所”が切り抜かれていたのだ。
注目を集めているのは、活版彫刻師であるトーマス・ジェミニが図版を手がけた医学解剖書『Compediosa Totius Anatomie Delineatio』の1599年に出版された1冊だ。
同書の中で女性の胴体が半解剖状態で描かれて解説されたページにおいて、おそらくは元の所有者の手によってであろうか、女性の身体の解剖図の股間の部分が三角形に切り抜かれていたのである。当時の当局が解剖学書の“検閲”を行なうはずはなく、やはり何らかの理由で所有者か、あるいは身近に同書を手にとることができた者が切り抜いたと考えられる。
女性の身体の首から下、大腿部から上の部分、いわゆるトルソーの半解剖図が細かい筆致で克明に描写されており、グロテスクではあるものの精細な職人技の活版イラストだ。決してそういう目線(!?)からでなく、学術研究の観点からも“肝心の部分”が切り抜かれてしまうというのは、かなり残念なことだろう。この“自主規制”の理由はいったい何なのか?