「エンジェル倶楽部」掲載陣の中では鬼畜系担当といえる、しょむ氏の単行本『Fall In The Dark』(エンジェル出版)が、発売になった。
しょむ氏の特徴は、エロマンガにおいては実用性を増す要素となるドロドロした人間関係とか、カタルシスを描く、さじ加減の巧みさである。氏のpixivを見ると一目瞭然だけど、単に抜くためのダークサイドなエロを描いている作家ではないのである。
しかも、絵の上手さゆえに、ダークで複雑な登場人物の嗜好を挿入しても、決して実用性が衰えないのが注目すべきポイントだ。物語性を重視するエロマンガというのは、ともすればサブカル的に消費されるヌケない作品になってしまいがちだが、まったくそうならないのが魅力的である。
そんな氏の持ち味が輝きまくっている作品が、今回の単行本には収録されている。「彼女ニ催眠ヲ」が、それである。
この作品。眠らせて拉致して犯すとか、そんなレベルじゃない。完全な催眠姦なのである。なんと、ラスト3ページまで、ヒロインは目覚めることなく、ずっと眠ったままで変態教師に犯されているのである。
この姦淫は、変態教師が学校で盗撮したヒロインの日常をDVDで再生しながら行われる。
映像の中でヒロインが話していたりもするが、ほとんど変態教師が独り言を言っているだけ。「寝てるくせに誘ってるのか」とか「俺のことが好きなのか」とか、犯している男性側のセリフばかりで構成されているのである。ともすれば、男がしゃべってばかりでウザイ作品になりそうなのだが、そうはならない。
そうやって、男の側の自分勝手な視点で描くことによって、変態性がよりクローズアップされているのである。そんな邪悪な欲望の犠牲になってしまったヒロインは、気の毒というよりほかない。でも、男の側の変態性の強烈さが、悲惨さを際立たせて、読者には心地よさを与えてくれるのだ。
あとがきで、しょむ氏は「堕ちモノ 凌辱が集まった一冊」と、この単行本について記している。でも、ここに収録された作品群を、そんな単純な言葉でくくるわけにはいかない。なぜなら、不幸を経て、ヒロインは堕ちとも違う別世界へと旅立ってしまっているからだ。
前後編で描かれる「正義ニ贖罪ヲ…」もまた、ヒロインが落ち度なく不幸な目に遭う作品だ。これは、気弱な幼なじみに想いを伝えられないでいる強気ヒロインが堕とされる作品。しかも、気弱なハズの幼なじみによってである。
ここでは幼なじみが、ヒロインがいつも自分のことを気にしてくれるような態度が、いかにウザかったかを語り続ける。すなわち、何も落ち度がないと思っていたことが落ち度だったという複雑性を挿入しているのだ。そんな幾重にも被せるようなレトリックを用いて悲惨さを際立たせるテクニックは、一朝一夕に生み出されるモノではないだろう。いったい、しょむ氏はどんな研鑽を積んで、このストーリーテーリングの手法を身につけるに至ったのか。
もうひとつ記して起きたいことがある。不幸になるヒロインを描くかと思えば、美人局を狙ったビッチが酷い目に遭わされる「畜産ニ愚者ヲ」では、ちゃんとDQNが酷い目に遭う、ざまあみろ感が光っていたりすることだ。
正直、凌辱とか鬼畜系の描き手というのは、読者の期待に応えようと思うあまりか「いつもの」感が出てしまいがち。その、限られた読者相手をよしとしようとしないところこそ、評価すべきだろう。
きっと、18禁以外のジャンルでは、もっととんでもない作品を描きそうな異能の作家ではないかと、考えている。
(文=ピーラー・ホラ)