そんなに需要があるのか! キルタイムコミュニケーションのアンソロから発売された『百合妊娠2』。前巻が昨年7月発売だから、一年を待たずに2冊目登場。
ということは、それだけ需要があるということだよな……?
まだ定着はしていない嗜好だと思うのだけれど、密やかに百合妊娠を愛でる層、あるいは、参加したい読者というものがいるのだろう。
この百合妊娠というのは、百合という、たおやかさを感じさせるジャンルの中にあって、勢いで成り立っている。
それはなぜか。まったく理屈も何もなく妊娠するからである。例えばキルタイムが得意のTSFジャンルだと、いかにして女体化するか、さまざまな理屈やら設定が提示される。ところが、百合妊娠というジャンルは違う。まず、重要なのは女同士で愛を育むこと。そして、そこに禁断の要素……女同士ということだけでなく、種族が違うとか、わかりやすい禁忌が存在していることで盛り上がる。
そうした障害を乗り越えることで、愛は高まり、結実した結果としてのセックスで妊娠に至るのである。なんで、女同士での妊娠してしまうのか、難しい理屈などは一切いらない。とにかく、女同士であるがゆえの、美しく愛が燃え上がる姿が重要なのである。
そのため、参加する作家たちは、いかに愛を盛り上げるか舞台設定に傾注しているフシが見られる。
今回、そんな舞台設定でもっとも優れていると感じたのが、長代ルージュ「奇跡の好きを遺したい」である。この作品、人類が滅びた地球で、ふたりぼっちで生き残った日本人の少女・サユとロシア人の少女・ニカが言葉も通じないままに、愛を育んでいく物語。
この人類がふたりぼっちになるまでの、一ページでコンパクトに語られる人類滅亡の過程が、失礼ながら噴き出してしまう。
わかりやすく、箇条書きで記してみよう。
彗星を見た人類が全員視力を失う。
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その欠片に付着していた殺人ウイルスが流行。
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感染者は化け物に。
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人工知能の防衛システムが核戦争を選択。
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宇宙人が地球を侵略。
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大災害で宇宙人滅亡。
いったい、SF何作品分の展開が1ページで起きているんだ……。最初に映画『トリフィドの日』のネタを持ってくるあたり、作者の造詣の深さを感じざるを得ない。
これで出オチで終わっていたら、どうしようもない。でも、物語ではそんな終わった世界で好きという気持ちを叶えたいという想いを描き、世界の復活も示唆する。要は、やることをやりながら、ちゃんとSFしているんである。
筆者も、いまだ百合妊娠のどこで興奮すべきかを考えている最中だが、どうも実用性よりも雰囲気を感じて悶えるのが、百合妊娠の楽しみ方のようだ。
そう考えると、初心者でも入りやすいのが、みら氏の「elf〜月の魔法〜」。これは、エルフとダークエルフとか愛の果てに結ばれて、種族の対立も消滅するという、とにかくわかりやすい作品である。こちらの作品を通じて知るのは、百合妊娠の結果が不幸であってはいけないということ。これもまた、ボテ腹エンド系のジャンルとはまったく異なる要素である。
百合妊娠=黒いモノを棄てて幸せを感じるということで、脳を慣らしていこうと思った。
(文=ピーラー・ホラ)