「どうにかしてよ、これ」
勃起してしまったことを指摘されたわけではないことがわかると、オレは落ち着きを取り戻し、
「管理人に電話してみる」
そう言いながら、ポケットからスマホを取り出して、管理人室の番号を検索した。すると、突然、着信音が鳴り響いた。末広のスマホが鳴ったらしい。末広はバッグからスマホを取り出すと、
「もしもし? もう来てるんだけど、エレベーターが停まっちゃって……」
明らかにオレを意識して、声を潜ませて応対した。あまりにも露骨なその態度にオレは、マンションに住んでる誰かと不倫でもしているのでは? と疑いつつ、管理人室に電話をかけた。
「どう?」
通話を終え、苛立ちと不安の入り混じったような調子で訊いてきた末広に、オレは頭を横に振って答えた。管理人は見回りにでも出てしまったらしく、コール音が耳元で空しく鳴り響くだけだった。
「ダメだ」
諦めて通話を切ると、突然、エレベーター内の冷房が効き始めた。生き返った心地がした。非常ボタンを押すと、管理会社のコールセンターに繋がり、復旧を急ぐことが伝えられた。
「良かった」
末広は、安堵の溜め息を漏らしたけれど、すぐに両腕をさすり、全身を震わせ、
「ちょっと、冷房効き過ぎじゃない?」
確かに、管理システムがバカになっているのか、強烈な冷風がエレベーター内に渦巻き、オレも身を震わせた。
「さ、む、い……」
唇を震わせ、歯をガチガチと噛み鳴らしながら、そう漏らした末広は、突然、お腹を抑えた。それと同時に、ギュルギュルギュル、という水っ腹の音がエレベーター内に響いた。
「ウッ」と小さく呻き声を上げた末広の顔を見ると、唇を噛みしめ、恥ずかしさをこらえるような表情を浮かべた。15年前、灰皿にクソを垂れた時と同じ表情。それを見て、オレのチンポはむくむくと膨張を始めた。
「ちょ、ちょっと、まだなの? 早くしてよ!」
非常ボタンを押して、末広は管理会社の人間に訴える。苦しさと苛立ちが混ざり合った口調で、切羽詰まっているのがわかる。