スペインの地方都市で、アダルトな“宗教芸術作品”が話題なっているという。アダルトグッズ店のショーウィンドーに飾られていたその逸品とは……。

■「キリストの降誕」を演出した3本の張形
日本の「こけし」の歴史をみてもわかるように、アダルトグッズは工芸品であり民芸品であり、場合によっては芸術作品ですらあった。
スペインの都市、タラベラ・デ・ラ・レイナの町にあるアダルトグッズ店は、通りに面したショーウィンドーに思わず魅入ってしまう“宗教芸術作品”を展示していることで有名な店だ。なぜアダルトグッズ店に“芸術作品”が陳列されているのか? それというのも、その品は「キリストの降誕」を演出した3本の張形(ディルド)だったのである。
地元のアーティストによって手がけられたその3体の陶器製の張形には、イエスの母・マリア、マリアの婚約者であるヨセフ、そして赤ん坊のイエス・キリストのイラストが精巧に描かれている。ちなみにここタラベラ・デ・ラ・レイナは「陶器の街」としても知られ、陶器製品が特産の地域である。
このアダルトグッズ店「Non Sit Peccatum」は町の“裏”観光名所にもなっていて、店の前でこのティルドをバックにして写真を撮る観光客の姿も多いということだ。このティルドを展示したのは3年前からだということだが、どういうわけか最近になって何かと心無い非難を受けるようになった。
「夫婦で来店した男性のほうが、不愉快なのでこのディルドを展示しないでほしいと要求してきました」と店主のエクトル・バルディビエルソ氏は同店のFacebookに書き込んでいる。しかしその後もその男性から侮辱の言葉を受け続け、一時は警察沙汰にもなったという。なぜ、このような非難を浴びることになったのか……。
■“宗教芸術作品”展示の賛否を投票で問う
この男性が来て以来、別の者からも非難を受けるようになり、ある日は店の看板にスプレー塗料で「罪人(pecadores)」と落書きされ、取り替えざるを得ない事態にもなった。さらに、店の前に陣取って入ろうとする客に何やら長々と説教をする男たちも現れ、明らかに営業妨害の様相を呈しはじめたという。
この男たちは何者なのか? バルディビエルソ氏は独自に調査したところ「Children of the Virgin Mary」(処女マリアの子どもたち)という組織の者たちであることがわかったのだ。その名前からして明らかにキリスト教原理主義系のグループであり、キリストの御影をアダルトグッズにして店頭に陳列している同店の噂を聞きつけ、組織的な排斥運動に着手したものと考えられた。
「(彼らは)私のビジネスを脅かしていました。私の店に来るお客がどうして会派の説法を聞かされなければならないのでしょう」(エクトル・バルディビエルソ氏)
男たちの“営業妨害”に耐えかねて、ある日店主はこのディルドを店の奥に引っ込めたのだが、その代わりにディルドを置いてあった場所にメッセージを書いた張り紙を貼った。そこには、今までここにあったディルドを再び展示したほうがいいのか、それとも引っ込めたままがいいのかを、地元の通行人に対して判断してほしいというメッセージであった。そして実際に意見を募って投票してもらったのだ。
988人の投票があり、その結果は圧倒的に「再び展示してほしい」という声だった(78.5%)。男たちの組織の意向と、地元の人たちの認識はまったく異なっていたのである。投票と共に寄せられた意見の中には「脅迫に屈しないでほしい」という応援の声も多かったという。こうして再び“宗教芸術作品”は店頭に展示されることになる。
混迷を深める世界情勢の中にあって、先進国の中では移民排斥などを掲げる右傾化、原理主義化、さらにはヘイト化の傾向が進んでいるといわれている。今回の一件がこうした流れに呼応しているものではないとは思いたいのだが……。
(文/宍戸ペダル)
【参考】
・Smash
http://www.smash.com/nativity-scene-painted-sex-toys-causing-quite-bit-upset-spain/