ありがちな倒錯系エロコメディかと思ったら、予想外にハードだった。玉越博幸『有栖寺理夢は変態である』(日本文芸社)。まあ、掲載誌が「コミックヘヴン」だったそうなので、なんでもアリっちゃアリ……。
物語の展開は、ライトな女装作品の定番といえるもの。ケンカ別れした彼女の萌美に会うために、男子禁制の有栖寺女学院に潜入した、主人公・ハルト。彼は、はずみで理事長の娘・理夢にケガをさせてしまう。その代償として、ハルトは学院の生徒・ハルカになり、理夢の下僕として過ごすことになる。しかも、寮では萌美と同室にされてしまうというものだ。
まったく定番の展開なのだが、ここで重要なのは、ハルトを女装させた理夢の目的である。彼女が求めているのは運命の人である。けれども、彼女にとっての運命の人とは愛を語り合う恋人ではない。性衝動、すなわちエッチな状況に遭遇すれば、理性よりも欲望が優先されてしまう「HENTAI」である。
そんな理想の「HENTAI」「私のHENTAI」として、ハルトは見いだされてしまったのである。
こうして始まる物語は、「コミックヘヴン」らしい18禁にはならないギリギリのエロスである。なにかと、スカートを下から見上げる構図が描かれて、パンツは見えまくる。女装したハルト=ハルカは、物語の早々で理夢に手でイカされてしまう。かと思えば、理夢に足コキされて、寝ている萌美の顔にぶっかけを決めてしまう。
とにかく、強制女装させられた主人公が、強気な美少女に好き放題弄ばれるマゾヒスティックな物語。それが、この作品を読んでいる最中に得た印象である。ライトなエロスで満足する読者にとっては、この程度でも実用になるんだろうなあ……というもの。物語よりも、ライトな股間の刺激を目的とした作品なのだと思っていた。
ところが、物語は終盤になって激変する。
最終話に至って、物語はライトなエロスから突然のエログロ展開になってしまうのである。
グロといってもいろいろあるのだがネタバレしない程度にいえば「脳髄が飛び散る程度のグロ」と記しておこう。
そこまで、シチュエーション重視の作品だなと思っていたので、予想の斜め上をいく超展開には、驚きを隠せなかった。そこまで描かれてきたことは現実だったのか、あるいは、ハルトの夢落ちだったのか、そのことも判然とせぬままに、物語は読者を混乱させたまま幕を閉じるのだ。
一瞬、これこそが作者の描きたかったものなのだろうかとも考えた。けれども、それにしてはあまりにも説明不足。むしろ、打ち切りにされた作者が、ブチ切れて描いたと考えたほうが、すんなりといく。
果たして真実はどちらにあるのか……? どっちにしても、そんな最終回ゆえに実用には使いにくい。
(文=ピーラー・ホラ)