
真夏のゴールデンタイム特番『稲沢淳一の心霊スポット巡り』への出演が決まった。しかも、共演はあの、100万年に1人の美少女アイドル・本橋カンナちゃんとあって、オファーがきた時、オレは、テンションマックスになった。郷里のおふくろや同級生たちに、片っ端から連絡した。破天荒芸人・いかれる君のブレークはもう間もなくだから、待っていてくれ、と。
だけど……。ロケ前日の夜。つまり、昨日の夜、同期のピン芸人・長野からの電話で、オレのテンションは一気にダダ下がりとなった。
「いかれる、感謝しろよ」
「何が?」
芸歴2年目にもかかわらず冠番組までもっている長野は、最近、天狗っぷりが鼻について、声を聞くのも嫌だったから、応じる言葉は自然と無愛想になってしまった。
「稲沢さんの番組、最初、オレにオファーがきたんだ。昨年出たときのリアクションが、視聴者ウケ良かったみたいでさ。でも、スケジュールがパンパンでさ。だから、同期のよしみで、お前を推薦してやったんだ。感謝しろよ」
確かに、長野は昨年、『稲沢淳一の心霊スポット巡り』に出演していた。あれが確か、初のテレビ出演だったはずだ。顔を合わすたびに自慢されたから、よく覚えている。しかし、長野の代役なんて、これほどの屈辱があるだろうか? 怒りに震える手で、ついスマホを握りつぶしてしまいそうになる。
「せっかく譲ってやったチャンス、ものにしろよな。せめて、爪痕だけは残してこいよ」
偉そうに。無視して、通話を切ってやろうとした瞬間、
「あとさ、カンナちゃんにもよろしく伝えておいてよ」
何だか、意味ありげな口調。長野は急に声を潜めて、
「実はな、昨年のロケの時に、オレ、旅館でカンナちゃんに逆夜這いかけられたんだ。カンナちゃん、あんな天使すぎる顔して、凄いのなんのって、ベテランの域。2泊3日のロケで、すっかり骨抜きにされちゃったよ。しかもさ、そのロケ以降なんだ、急激に仕事が舞い込むようになったのは。カンナちゃんは、究極のアゲマンに違いない」
確かに、カンナちゃんは昨年もロケに参加してたし、ロケから帰ってきてすぐに長野はブレークした。だが、長野は童貞だったはずだ。養成所時代、童貞同士ということで、講師に無理にコンビを組まされそうになった。