うめ丸(作画)・櫻井ミナミ(原案)『kadan』(オークス)は、久しぶりに登場した濃厚かつ読み応えのある百合作品集である。
実のところ、うめ丸氏はエンジェル出版の作品しか知らず「こんなのも描いているのか」と手に取ってみて驚いた。
収録作品は、それぞれ花言葉にちなんだ物語を展開しているのだが、とにかく深いのだ。
この作品の想定されている読者層は男性のはずである。男性向け18禁作品において、同性愛が描かれるのは、もはや当たり前。男の娘やショタなどなど、もはや性別など大した問題ではないことを教え、興奮させてくれる。
そんな男同士の場合とは違い、百合ものはまた独特の感覚を与えてくれるのだ。
それは、情念の強さである。当然「実用」が求められるわけだから、エロシーンは男を勃起させるために描かれている。けれども、優れた百合ものというのはノルマをこなしつつも、とてつもないものをぶつけてくる作品になる。それは「情念」である。
優れた百合ものには、男同士を描くエロマンガでは決してありえない独特の心に突き刺さるものが存在するのだ。この作品集『kadan』は、その突き刺し方がただ者ではない。
冒頭の描き下ろし作「花談─ヤグルマギク─」から、いきなりただならぬ情念を読者に見せつけてくる(なお、ヤグルマギクの花言葉は「清楚」「幸運」だ)。
この物語、高級ランジェリー店で働く清楚な店員に一目惚れしたボーイッシュなヒロインとが、距離感を縮めるシーンを描くショートストーリー。冒頭から、2人がいつも会うのは営業中の店の中だけ。しかも、店内でセックスをしているのである。そんな異常な行為だけで繋がっている2人。清楚な店員の晴実さんは、自分が遊ばれているだけじゃないかと不安感を募らせた末に、初めて店の外で会い、燃えるような気持ちをぶつけるのだ。
この作品に限らず、収録作品はどれも募った思いをぶつけるシーンが濃い。エッチシーンよりも濃い。
彼氏と別れたヤケ酒で親友と一線を越えてしまい、ビミョーな関係になってしまう中編「花談─ヘリクリサム─」は、これまた情念をぶつけ合うシーンで悶絶する作品だ。この作品、かなりプロットが細かくて、もともと親友の側は友情以上のもの=恋愛感情を持っていたという背景がある。それが、想い人が彼氏と別れてのヤケ酒。それでヤッてしまったものだから、いわば弱みにつけこんだ構図。ゆえに「あなたも私を裏切ったんだ」とショックな言葉をぶつけられてしまうのだ。
そこから、二転三転する両者の心の機微を描きつつ、告白へと向かうシーンは、もう悶絶が止まらない。
なんなのだ、この男女の恋愛じゃああり得ないような濃さは。
この作品集の注意する点は、そうした濃さゆえに悶絶が治まらず最後まで一気に読むのが困難なこと。実際、このレビューまだ全部読み切れずに悶絶しながら書いている。
いいな、女の子同士ってこんな恋愛ができるんだ。やっぱり目覚めたら美少女になりたい!
(文=ピーラー・ホラ)