1月から放送が始まったTVアニメの中で、一際大きな存在感を放つ『けものフレンズ』(テレビ東京系)。ネットやSNS上で「すごーい!」「たのしー!」という “フレンズ”のセリフを見ない日はないというほどだが、果たして放送前にこれほどの人気を獲得すると誰が予想していただろうか?

 一見すると、子ども向けCGアニメのようにも感じられる裏に、“考察”が大好きなアニメファンたちを唸らせる、ストーリー展開と数々の謎や秘密はどんな意図で用意されたのか。そして、一度ハマってしまえば癖になる『けものフレンズ』独特の掛け合いの間や、聞いているとポジティブになれるサーバルちゃんをはじめとするフレンズたちの演技は、どうやって作り出せたものなのか。

 そして何より、先週放送された第11話「せるりあん」では、サーバルちゃんをかばったかばんちゃんが大セルリアンに飲み込まれるという衝撃の展開が描かれたが、最終話は果たしてどうなってしまうのか。

 そこんところを聞くべく、3月5日に行われた「一挙上映会」に登壇、キャスト陣とのトークショーを終えたたつき監督を直撃! 制作も最終盤に差し掛かったところ、しかも慣れないイベント出演直後とあってお疲れっぽい様子であったが、『けものフレンズ』に漂う独特でなんだか面白いあの“間”を漂わせつつ、取材に応じてくれたたつき監督のインタビューを余すことなくお伝えする!

■「思ったよりも情報伝達が早くて……」(たつき監督)

―― イベントに参加されてみて、いかがでしたか?

たつき監督(以下、「たつき」) 放送が始まってから、『けものフレンズ』のファンというお客さんと対面するのは初めてに近いので、ありがたいなぁというのがまずは正直な感想ですね。

 ネット上やSNSで盛り上がってもらっているとは聞いていても、どこか他人事というか(笑)。(盛り上がりとの)距離を図りかねているというか、別の作品で起きていることのようにチラ見しつつ、現場ではひたすら修羅場続きで(笑)。

第3話「こうざん」で登場したトキ。強いインパクトを残した(いろいろ意味で)

―― Twitterでもそのような発言をされていましたね(笑)。感想を言い合うだけでなく、ファンがいろいろ考察を重ねることでより盛り上がるという現象が起きていますが、監督からして「これを拾われたのは意外だった」という仕掛けはありますか?

たつき (フレンズの目の)ハイライトまわりでしょうか。もともとゲームの頃からこっそりと仕込まれていることだったんです。ただ、あれをTVアニメで敷きはじめたころは、拾ってもらえるかどうか、際どいところだなと思っていて。

ですから、そこまでいけばすごいなあというくらいのつもりで、視聴者の方が気づかない、拾われなくても成立するように構成していたんです。

※『けものフレンズ』に登場するフレンズたちのうち、絶滅、絶滅が危惧されている動物をモデルとしているフレンズは、目にハイライトが入らないという処理がなされている。

 こちらの当初の感覚では、あそこに気づいていただけるのって、百人に一人か、千人に一人と考えていたんです。最初の感覚でゆるやかに放送されていたら気づかないまま過ぎて、放送が終わって何年か後で「もしかしたら言ってくれる人がいるかな」というレベルのつもりだったんですけど。

―― 放送直後からTwitterなどで指摘しているファンもいたようです。

たつき 思ったより(視聴者の)分母が大きかったですし、情報の伝達も早かったですよね。もうちょっと連鎖に一話ちょいくらいかかるかなと思っていたんですけど、たぶん一日未満ぐらいでバババババっと何か起きていたなと。

―― 2話のエンディング、続けてそういったハイライトなどの細かい演出で、「ただ子ども向けアニメじゃないぞ」と、アニメファンが一斉に気づきましたよね。その後も物語が進む中で、少しずつ「ジャパリパーク」の秘密が明かされていくストーリー展開がすごくおもしろいです。『けものフレンズ』のストーリーは、どのように構築されたんでしょうか?

たつき イベントでも少し触れましたが、まず大まかなストーリーがあって、そこから舞台となる各“ちほー”を決め、そこから“ちほー”に住むフレンズ=登場キャラクターを決めていく、という過程で固めていきました。

 もともとアニメ制作のほうはお仕事……アニメーション技能、CG技術でやらせてもらっていて、趣味としてアニメ全体のお話まわりからの制作をやっているという感じで、それぞれやっている感覚だったんですけど、その延長線上、ミックスしているような感じで『けものフレンズ』はやっているかもしれないです。

 作り方は普通のアニメ作品とほぼ変わらないと思います。ただ、その工程が普通のアニメより、前後に少し無駄に余分をもっていたり、話数を縦になるべくたくさん持つことで、お話の中での連携やこぼし(エピソードを次話以降に持ち込む)を意識している部分が多いかもしれませんね、他作との差分をということであれば。

2人の出会い。物語の軸にはブレがなくとも、2人は結構成長しましたよね

―― お話の縦軸をより意識している、ということですね。たしかに『けものフレンズ』は、7話までだったら「図書館へ行く」、8話以降であれば「港に行く」という縦軸がブレていません。またストーリーに加えて、舞台とキャラクターたちも魅力的だなと思います。

たつき 物語の軸はありますね。あとはその中でも「キャラ先論」「話先論」があると思うんです。そこをまったく同じパーセンテージか、行き来をすごく増やして、キャラ優先なのか、お話優先なのか、わからないレベルでその2つが有機接合できるといいなと考えていました。

『けものフレンズ』はキャラも魅力的なデザインの子がたくさんおりましたから、キャラクター作りもぐいぐいできましたし、TVアニメで作ろうとしていたお話の下地みたいなところとも相性が合って、よかったなという感じですね(笑)。

■天然とねり込んだお芝居プランのハイブリッドが、「すごーい!」のパワーを産んでいた!?

―― 転がっていくといえば、キャラ同士の掛け合いも独特で可愛いし、楽しいです。『てさぐれ!部活もの』もそうでしたけど、この会話の“間”はたつき監督の独特のものだなぁと思ったんですが。

たつき 間は良し悪しがありつつですが(笑)、キャラ同士の掛け合いを考えて脚本を書くのは好きですし、こだわっている部分があって。キャラクターはおもしろい子が多いので、なるべくイキイキしたまま転がってほしい。ですから各キャラの語尾や、この子はここはタメ口であるといった設定には神経質かもしれませんが、こだわっていますね。

―― そのキャストさんたちとはどんなお話をされたんですか。サーバル役の尾崎由香さんをはじめ、比較的若いキャストさんが多い印象です。

たつき レギュラーは若い方が中心ですが、各話のゲストには中堅・ベテランの方に多くの、お力を借りて、うまく持ち上げていただけたと思います。主軸の方は、お芝居ももちろん、声がキャラにフィットしているかどうかを意識してキャスティングさせていただきました。その感覚が今よく出ているのかなぁと思います。

 加えてお芝居は、現場で音響監督さん(阿部信行)に結構丁寧に追いかけていただいているので、キャリアが浅いゆえの欠けがあれば、しっかり追いかけていただいているので、いいところだけが残っているという手応えを感じてます。

「みゃみゃみゃみゃみゃみゃ!」について質問するのを忘れてました…

―― 各レギュラーキャラを演じるキャストさんに、監督がどんな演出をお願いしたのか。全キャラお聞きしたいところですが、ここは絞って、サーバルちゃんを演じるにあたって、尾崎さんとはどんなお話をされたか、教えてください。

たつき やっぱり元気な子。だいたい今お客さんが挙げてくれるようなところが魅力ですよね、かばんちゃんと一緒にパークをまわっていきますが、そこを良さを殺しすぎないようにと。

 あと、これはあまり言ったことないかもですが、素のときがサーバルっぽい子なんですよ、尾崎さんって。ところがお芝居に入ると上手く演じようとされるから少し遠ざかってしまう。でもそこから粘って芝居を練ると、次第にまたサーバルっぽくなっていくという。

ですから、ちょっと遠ざかったなというときは、地の方に戻すか、芝居をさらに練り込むというようなことをしていますね。

―― あちこちで取り上げられていますが、尾崎さんの「すごーい!」「たのしーい!」といったセリフたちはパワーがありますよね。

たつき ハイブリットが出るときがあって。

―― 黄金配分になるときがあると。

たつき はい。ガチ作りでも放りっぱなしでもダメで、程よくキメつつ、遊んでもらうっていう。「すごーい!」はキメ寄り、「たのしーい!」は遊び寄りかもしれません。アホなことを台本に落とすのが割と好きな方なので、台本通りやっていただいた時点で、結構生き生きしているはずなんです。

 台本どおりにしっかり作っても、100点を越えて120、30点がたまに出るキャラになってくれたと思いますが、それとは別でちょっと暴れてもらって、それがうまくキャラにフィットして上積みできそうなら後工程で吸収してしまいますね。

福原慶匡プロデューサー(以下、「福原」) それは、監督がある意味役者の自由にさせる「プレスコ」を、これまでの作品で経験してきたからかもしれませんね。本来は台本どおり演じるのが当然というところで、かなり幅を持てるチームではあるので、「ここまでは遊んでOK!」みたいな限度がわかっているんじゃないですかね。

 限度がわかんないと、バチバチに「絶対はみ出るな!」ってなるけど、はみ出ていいけど、はみ出すぎたら当然収まらないし。「はい、ここまでが安全エリア」っていうのがちゃんと掴んでいるというか、海水浴のブイのように明確に見えているというか。

たつき オールフリーにすると、「もういいから!」ってお客さんもなっちゃうんですよね。「それは声優さん遊びすぎ。話もちゃんと追ってくれ」となる……。あくまでお話ベース、かつ、ギリギリのところをちょっとだけ採用するような。

 台本の時点でわりと、遊び箇所がコントロールのパーセンテージとともに決まっている感覚は持っているんです。たとえばトキ(演:金田朋子)が登場すると決めた時点で、歌うところは絶対に面白くなるなと。なのであそこはなるべく自由にやってもらうつもりで構成しつつも、話のおさえどころとキーワードだけは外さないようにしないとと思っていました。

 あの歌は歌詞も曲もなくその場で歌ってもらいましたが、その後の6、7話のことも踏まえて、トキが絶滅しているっていう匂いを必ず出してもらわなくてはいけない。ですから、「仲間を探している」っていうフレーズを入れてもらったんですが、あれがやっぱり「なんとなく見ている」という方たちにも残って、後の6、7話でギョッとしてもらえるという、いい感じのバランスになったのかなと。おもしろいですね。

PPPのライブシーンから。「どっちかって言うと」というレベルには見えません

■「たしかに脚好きですね。肉付きフェチでもあるんですけど」(たつき監督)

―― イベント会場の大きなスクリーンで第8話、PPPのダンスシーンを見ていて、たつき監督は女性キャラの脚がお好きなんだろうなと思ったんですが。

たつき あははは(笑)。

―― 太ももを舐めるようなカットも多かったし、しかもちゃんと脚を描きわけていますよね?

たつき たしかに脚好きですね。どっちかって言うと(笑)。

福原 あれ結構、モデルとかも見る人が見れば分かると思います。結構、普通の筋肉の付き方とかも……。

たつき ですね。去年頭ごろ“脚”ブームがきて(笑)。肉付きフェチもあるんですけど、筋肉のラインを一回全部覚えておこうかなってときに、ちょうどまぁあのへんの作業が重なったこともありまして、ああいう脚になりました。

(吉崎観音)先生にも同じようなこと言っていただいたんですけど、先生のデザインというのが、もともと「可愛い」と「肉付き」をわりと両取りできやすい頭身なんです。

―― たしかに吉崎先生の『ケロロ軍曹』の夏美ちゃんとかは……

たつき めっちゃ可愛いしエロいですよね。ただ先生はどっちかって言うと、上半身とむっちり感がお好きなんじゃないかと思いますね、なんとなく……。僕は多分筋肉寄りが好みなのかも……(笑)。

福原 今だと結構ニーハイソックスのニーハイの上に肉を余らせる、少し乗っかっているという描写を、もう当然ファンも見てくるようになりましたよね。昔はそれをこだわってるだけでもすごい!って言われてたのに、もうやってないと怒られるレベルになってるじゃないですか。

そして今はもうさらに上の話というか、みんなたぶん言語化はまだできないけど、グッと来る表現、リアルを感じる演出もあって……また、時代とともに数年が経つといろんなの作品でその表現を取り入れるだろうか、またそれがどんどん言語化されて、常識化していくんでしょうけど。

たつき 結構その言語化のところで、まだ世の中に出ていないパラメーターって結構ある気はするんですよね。見たことはあるけど、これをなんて言い表せばいいかっていう……そういうところをもっと出せるといいですよね。

■「ハッピーエンドでも鬱でも、全然それはもうどっちになってもいい」(たつき監督)

―― 11話でとうとう追いつきましたが、それまでは毎話のラストで、アライグマとフェネックが2話前のゲストキャラと出会うという構成になっていました。たった2週間前なのに懐かしく感じられて楽しかったです。あの構成はどういうところから生まれたアイディアだったんでしょうか?

たつき やっぱり今仰っていたそのものを見たかったというところですね、旅の再確認というか。加えて物語の構成上、「アライグマとフェネックたちを定期的に出す」必要性もありまして。ではどうするか、ミニコーナーで完全に分けちゃうっていうアイデアもありましたけど、追跡者の形にすると、『けもの』は1話ごとに舞台も全部変わりますし、ゲストキャラも変わるので、結構豪華な使い方をしているんですけど、それらをもう一回見ることができる。そうなると自分でもうれしいのと、ちょうど忘れた頃の感じは、その後も描けていいかなとうのもあったんですよね。

―― いろんなロードムービーがあって、もちろん重要キャラが再登場する作品も多いですけど、登場したキャラクターが定期的に出てきてくれるっていうのは、今までありそうでなかったので、すごくおもしろいと思いました。

たつき あ、そうですか、それはうれしいです! 実は映画などをあまり数見るほうではないんですけど、『けものフレンズ』とかでたまに今言っていただけたようなこと、「ここ今まであまりなかった」とか、「やり口として新しい」とか言っていただけることがちょこちょこあって、それはすごいうれしいですね。

―― あんまりこってり見る人だと、どっかで見たようなお話になってしまうのかもしれませんね。

たつき よく福原も言っているんですが、ガラパゴス感というか(笑)。ほどよく鎖国している感じが、「なんでこうなったん!?」というコモドドラゴン的なところがあるかもしれませんね。外敵からほどよくほっとかれた結果、わけわからん進化をしているのは、珍獣としては、外から見ごたえがあるかもしれませんね(笑)。

―― 天然が生んだアイディアだったんですね。

たつき はい、全くもってそうですね、変に捻ろうとしたわけではなく。あまり悪意で転がしてやろうというのはなくて、「こうするとおいしいはず!」という感じでやっているんで、そこからそういうのが出てくるとうれしいですね。

―― 最後に、お話が進むにつれて、“人”“島であるということ”“セルリアン”などの秘密が明るみになっていって。鬱エンドか、ディストピア作品だったのかと身構えているファンも多いようですが、最終話の見どころを紹介していただけますか?

たつき これはイベントでも触れましたが、放送開始前のどこかで「ほんわか」って言っちゃってるんでみんな大丈夫やと思っているかもしれませんけど、あれちょっと意図と違う伝わり方してるかもでして。僕自身は、ハッピーエンドでも鬱でも、お話やキャラクターが旅した素直な結果であれば、全然それはもうどっちになっても良いと思っていますから。

 ただ、予想を超える反響、好評をいただいたからといって、当初予定していた物語を揺らがすようなことは全くありません。どっちに転んだとしても、それは最初にキャラが決めた通りのシーンになっておりますから、そこを楽しんでもらえればと思います。