東京……いや関東中のアニメファンがお世話になっていて、頭が上がらないテレビ局といえば、9チャンネル=TOKYO MX。再放送も加えれば週に60本前後ものTVアニメを放送し続けている通常放送に加え、年末年始も劣らず、人気TVアニメの一挙放送や特番放送が多数控えている。

 そこで今回は、注目年末年始アニメ特番の概要、そしてなぜこんなにもTOKYO MXはアニメに対して手厚く情熱的なのか? そこんところを、TOKYO MX事業局次長兼アニメ事業部長の尾山仁康氏に伺った!

■デジタル化、そして『ハルヒ』で深夜アニメが元気になった2016年

―― TOKYO MXは2015→2016も年末年始特番が目白押しですね。

尾山 その前に、最初に前提をお話ししたいんですが、弊社はここ数年で急にアニメの放送が増えたわけではないんです。その事情からお話ししてもいいですか?

―― キッカケはデジタル放送に切り替わってからですよね。

尾山 そうです。加えて、弊社がアニメに着手、力を入れはじめた背景に、元日本テレビの細野邦彦(現TOKYO MX顧問)というプロデューサーがおりまして。その細野が「アニメをやれば勝てる(視聴率が取りやすい)」と、06年から話していたんです。ちょうどそのころ、在京キー局のアニメ本数が減少傾向にありましたから、勉強会を開いてアニメを勉強するようになって……この勉強会は10年続いて、今でもやっています。

―― 06年というと、『涼宮ハルヒの憂鬱』もあって、深夜アニメが元気になりだしたころですね。

尾山 『ハルヒ』も弊社で放送していましたが、増え始めたころでしたね。またTOKYO MXが開局(1995年)したてのころはニュース番組が中心でした。これは絶対に必要で、今もしっかりやっていますが、より多くの人にMXを見てもらうためには“視聴習慣”が必要です。

フジテレビさんなら『サザエさん』、テレビ朝日さんなら『ドラえもん』があるように、“毎週○曜日はこれ”と、視聴者の方の視聴が定着するような作品を放送することが必要で、かつ視聴者に定着させる必要もある。

そういった戦略でアニメを放送してきたんです。どうせやるのならとことんやろうと、1本2本ではなく、夕方と深夜、2段3段構えでアニメを放送していこうとなったんです。これは、おいしいラーメン屋も一軒では流行らないけど、2軒、3軒と固まっていると流行り出したりしますよね。

―― “ラーメン屋通り”みたいに認知されて、人がくるようになったりしますよね。

尾山 そうですそうです、そうやって固めていこうと考えたんです。加えてデジタル化して弊社は“チャンネル9”となって認知度が上がったこと、スカイツリーから送信することで環境もよくなりました。

あわせてSNSなどでのアニメの実況やリアルタイム検索も追い風になりました。それぞれのアニメのタイトルで検索すると、実際弊社は圧倒的に多いですからね。加えて、キー局にはできないような編成プログラムを仕掛けられることもあって、「一挙放送」ができるようになったんです。

■本当は『ミルキィ』を24時間ぶっ続けでやりたかった!

―― 2014→2015年も『進撃の巨人』、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズなどの一挙放送がありました。

尾山 その年に頑張ったアニメ作品、アニメファンから引き合いが強い作品を放送できればと、広告代理店さん、スポンサーさんと相談しながらやっています。ずっと続けてきたからこそですが、ブシロードの木谷(高明)社長は「一年間の集大成」と仰ってくれているんです、やる意義が非常にあると。

ここ10年間の大晦日の放送は、ブシロードさんとアニプレックスさんにずっとご協力いただいております。

続けていると、ほかのビデオメーカーさんからも「うちでも一挙放送ができないか」と問い合わせをいただくようになって。そういった流れの中で、製作委員会さんと相談しながら細部を詰めて、今年は『マクロスF』劇場版の前後編を、地上波初で放送できることになりました(※各作品、放送日時の詳細は後述)。

『マクロスΔ』先取りでは1話の映像なども見られるとか

―― 新作『マクロスΔ(デルタ)』の特番もあわせて放送されるんですよね。『マクロス』シリーズは引き合いの強い作品だと思いますが、これもやっぱり10年続けてこられたからこそ、ということでしょうか?

尾山 ええ、そうだと思います。我々も頑張って営業しておりますし、ここは勇気をもっていい放送枠を用意したということです。

―― 年内では、『スタミュ』の一挙放送もありますね。

尾山 これはTVで放送されたものですが、やっぱりいい作品だと思いますから。これも3日間かけて放送していきます。あとは大晦日、『Δ』の放送後に、1月放送開始の新作『ラクエンロジック』の特番、あと今年も『ミルキィホームズ』の特番があります。

―― 『ミルキィホームズ』も息の長いコンテンツになりましたよね。

尾山 そうですね。木谷社長は、マネージメントを続けてきた三森(すずこ)さんと徳井(青空)さんがμ’sの一員としてNHKの紅白に出場するということが、この一年間で一番うれしかった、本当にうれしいと興奮して仰っていました(笑)。

―― 子を見守る親御さんの意見ですね(笑)。

尾山 8年前に『ミルキィホームズ』が発足した当時、この中のメンバーが紅白に出れるなんて、誰が予測できたかと。本当、今年で一番うれしかったみたいです。もちろん『ラブライブ!』も弊社でTVシリーズを放送させてもらいましたから、「MXとともに大きくなってくれて、本当にありがとう」と、お礼をいいたいです。

―― さらに大晦日は劇場版『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』も放送されますね。

尾山 こちらも地上波初放送です。今年もいい時間に、ファンから引きあいの強い作品を放送できることになりました。ぜひ一人でも多くの方々に見ていただきたい作品です。

■放送数は増え手間は増えるが、小回りの良さでカバー!

―― まだまだ特番はあります。

尾山 30日には『JKめし』の一挙放送、そして年明け3日には劇場上映されたOVA『翠星のガルガンティア ~めぐる航路、遥か~』。

さらに、こちらも劇場上映もされたOVA『ガールズ&パンツァー これが本当のアンツィオ戦です!』と、現在上映中の劇場版『ガールズ&パンツァー』のさわりを紹介する特番を放送します。

―― 同じく年明けで目を引かれたのが『SHIROBAKO』の一挙放送です。先ほどの「今年頑張った作品」というところに、すごくあてはまる作品ですよね。

尾山 そうですね、はい。これはよかった、ハマったな、と思います。実は今年は本数だけでいうと(特番が)少ないんです。ただこれは、年末年始のカレンダーの問題でして。

―― 去年は土日が重なって会社員の人でも9連休という人が多かったですけど、2015年は6連休の人が多いようですね。

尾山 そうなんです。我々の特別放送番組も14→15年と比べると、数が少し減っているように見えるけど、それは単純にカレンダーの問題であって、弊社のアニメへ注ぐパワーが減少しているわけではないとお伝えしたいです。

―― 一つ聞きたいと思っていたのですが、MXさんは多くのアニメを放送されていますよね。再放送も入れると週に60本前後は放送されていて、かなり忙しいと思いますが、普段のTOKYO MX・アニメ事業部さんはどんな感じでお仕事を進めているんですか?

―― 『ミルキィホームズ』は年明けですが、すごい編成になっていますね。

尾山 元旦の21時からぶっ続けで13時間、翌日の10時までやります。弊社としても『ミルキィホームズ』は応援してきたユニットですから。

12月13日の有明コロシアムで開演された『ミルキィホームズ Presents ブシロードライブ2015』でも告知していただいたし、劇場版の公開も2月27日に控えています。本当は24時間ぶっ続けでやりたかったんですが……。

尾山 アニメ事業部は4人いますが、まずはアニメ放送の運行をしっかり遂行していかないといけないわけです。

少ない人数だからこそコミュニケーションをしっかりとれているのかなと。役割分担を決めて、編成案を中心に営業をかける、搬入の際はこうルートを作っておくとか、先手先手をうつように心がけて、部が一つのTV局のような雰囲気でやれていると思います。モチベーションを高めて、作品一つ一つ、丁寧さを心がけて。特段辛いという雰囲気ではないですね。

―― 4人で何本ぐらいの製作委員会会議に出てらっしゃるんですか?

尾山 それは相当数出ていますけど、会議は月1ぐらいで作品ごとに参加していますから。ただ、来年はさらに本数が多いので、各人、時間をうまく使って作戦を練らなければなりません。

―― さらに最近は5分15分といったショートアニメも多いです。ショートアニメは作画などの苦労は大分軽減されますけど、放送に至るまでの過程はふつうの30分アニメとさほど変わらないと思いますが?

尾山 ええ、でもいい意味で充実しているというか。どこかで有事があったら、枠が空いたらどうしようという恐怖感がありますから、より小回りの利くショート作品も積極的に営業もかけていますし。そこは編成と相談してスポットでやるのか、アニメだけではなく会社全体としてちょっとバラエティ番組を入れたらどうかとか、話し合いをしながら進めていっています。弊社は小さい会社なので、コミュニケーションを比較的多くとるように努め、色々な意味で小回りが利くよう心がけています。

■2016年のTOKYO MXはさらなる期待作が目白押し…!?

―― 了解しました。ただ、有事という単語がちょっと気になったんですが?

尾山 例えば電車や飛行機の事故、災害、大事件が起きたときは内容を考えたりはしますよね。国民の皆さまが大変な思いをしているときに、ちょっとコンテンツ的にどうかというのを確認したりして。

―― 茨城・栃木で水害が起きたときに、放送を自粛されたアニメがありましたよね。加えて、それこそ『SHIROBAKO』の作中にもあったような、納品がギリギリになってしまうようなケースもあったのかなと。

尾山 ええ、まぁ……でも各アニメ制作スタジオさんが必死な思いで作られているわけですから。会社として限界はありますけれど、弊社の運行も「情報をくれ」と。そうすれば、はっきり「○時までは大丈夫」とは言わないですけど、極力協力してくれる。

一番怖いのは事故ですから、そこはきっちり皆さんと情報を共有しながら……限界は限界としてありますけど、今のところ何とか無事に放送することができています。だから現場は休日だろうが何だろうが「○日○時にきます!」となったら、責任者として会社へきて、ただひたすら待って、届いて、「ああ、よかったな」と。これを繰り返して、10年間経ったという感じですね。

―― 16年の展望についてもお伺いできればと思います。先ほどのお話だと、本数が増えるようですね?

尾山 16年は1月ももちろんですが、春放送分もたくさんのお声をいただいております。ジャンルで言うとスポーツものや男性アイドルものの声も聞こえてきていますね。ビッグタイトルを相当いただいておりますので、これは期待していただいてよいかと。それに我々もアニメのおかげでここまでこれたわけですから。会社の利益の中から、少しずつ製作委員会への出資に参画しています。来年は非常に忙しい一年になるだろうなと思います。

―― というと、たとえばイベントを展開したり、さらなる特番を放送・制作する予定もあるんですか?

尾山 一応原則論として我々は放送局ですから、後援などはともかく、あまりイベントをやるということはないんですね。放送局として、放送を重視していこうと。

―― フジテレビさんの「ノイタミナ」、TBS・MBSさんの「アニメイズム」など、放送枠をブランド化しているところもありますが、MXさんではそういった動きは、あまりありませんね。

尾山 火曜の22時台は「アニメの神様」、これは設立当時「エンタの神様」が流行っていたので、命名しました。

今は『ドラゴンボールZ』『機動戦士ガンダム0083』を放送中ですが、今のところ弊社で、ほかに放送枠をブランド化してプレミアにするということは考えておりません。

ファンの方がTVを見られる時間に、できるだけ数多くの作品を放送する、というのが一番です。もちろん内容によって深夜帯にするとか、そこからさらに編集を施す作品もありますが。

―― なるほど。ただ、これだけ作品数があると時間の組み合わせも単純に大変そうです。たとえば、お色気と見せかけて、フタを開けたらストレートにいいお話だったりする作品もあります。現場にいられる皆さんも「これは内容的にもっと浅い時間だったかな」と感じられたりするんでしょうか?

尾山 確かに「思ったよりはそんなに」という作品はあるんですけれども、放送する責任ある側に立つと、なかなか……ただ、例えば『進撃の巨人』も放送後に、一挙放送時には結構早い時間帯で放送しています。弊社には再放送、一挙放送というスキームがありますので、そこはあまり気にしすぎないようにしています。

―― それではそんな特番や、通常の放送を楽しみにしているアニメファンへメッセージをお願いします。

尾山 まずは見られる時間帯にアニメを放送して、一週間飽きないように、楽しいアニメを放送していくというのが我々の本望ですから。ぜひチャンネルを9に回していただければと思います。