「pixivを拝見しましたけど、2011年の4月から投稿をはじめていますよね。それまでは、どういった形で活動していたか聞いてみたいと思っていたのですが?」

 私は、この質問からインタビューを始めた。はっきりとした声で返事が返ってきた。

「もともと、めっちゃ描いていたんですけど、それまでの投稿は全部消したんですよ。あまりにも下手くそで、耐えられなかったんです」

 先に記した2011年4月10日にpixivに投稿されている作品「やみやみはたたん」。それに続いて5月16日には「中出氏ひどいお」というタイトルの作品が投稿されている。拘束され強姦される少女が、膣内射精されて、妊娠の恐怖に怯えているイラストである。なんだかわからない勢いで描かれた感のある前者に対して、後者は勢いは感じられないものの性的興奮を喚起する丁寧な描かれ方がされている。この時点で、かなりの絵の実力を持っていたことは容易に想像ができた。ならば、それまでは、どのような形で絵やマンガを描いていたのか、そのことを知ることからはじめようと思った。

「2011年の時点で、デジタルで絵を描くようになって3年くらい。それまでは、絵はほとんど描いていなかったです」

「なら、何かpixivを始めるきっかけになるような出来事があったの?」

 そう問いを投げかけると、知るかバカうどんは、すこし伏し目がちになった。

「2回目につくった同人誌が、ぜんぜん売れなかったんです」

 最初に同人誌をつくったのは、17歳の時であった。大阪の同人誌即売会で東方projectの二次創作の同人誌を、友達のサークルに委託頒布してもらった。その最初の同人誌は売れた。けれども、それはビギナーズラックのようなものだった。

「その次にエロを描いたんですけど、全然売れなかった。画力がクソだったんで……。あ、すみません、お茶を頂きます」

 一言断りを入れてから、使い捨てのカップに注がれているお茶を両手で持って、音を立てずに啜った。なぜか、むしろそのしぐさのほうに興味を惹かれた。いきなり、彼女の持つ繊細な内面が目の前に開陳されたように見えたからだ。

「そんなに、絵が酷かったの?」

「いや、見るに堪えないですね。そういう同人誌を3冊くらいつくったんですけど、まったく売れなくて。それで、自分に絵のきっかけを教えてくれた人がいたんで、その人に相談したんですけど、言われました。

《あなたは何か間違えているんじゃないの、自分に描けるものを描いた方がいい。わざくらエロい18禁描いても、ダメやと思う。ホントに描きたいものを描いてみたら》

 ということで、2011年4月に描いた絵を投稿したら、閲覧数がメチャクチャ伸びて、あ、これや! と思ってぇ」

 大阪弁特有の語尾の後で、アハハと笑って身体を揺らした。この「やみやみはたたん」という一枚の絵は、2011年4月15日付のR-18Gランキングで堂々の第4位にランク入りしている。18禁かつグロというジャンルは、膨大な数の作品が投稿されるpixivの中にあっても、決して数が多いものではない。けれども、その中でランク入りするということは、無数の人々が、衝撃を受けたことを如実にしめている。

「そこで、自分の好きなものが何かという目覚めがあったじゃないかと思うけど」

「いえ、ずっと隠していたんですけど。どうせ、キモいって言われるやろなって。やったんですけど、思いの外みんな見てくれたんでpixivに命を賭けようと。いや、pixivにじゃないんですけど」

「自信が湧いた?」

「いえ、安心ですね」

 言葉の間に、知るかバカうどんは何度も笑った。幾度かは声を出して笑った。それは、自分のことを声に出して語ることへの気恥ずかしさを隠すものではなかった。

「同人で活動している時には、仕事は? 単行本の後書きでパチンコ屋とか書いていたのが気になったんだけど」

「職業メッチャあるんです。居酒屋でずっと働いていて、そっからスナックへいってキャバクラいって……。ラウンジの黒服いって。冷凍食品の事務をやったり、出会い系のサクラにテキ屋もやったり……いろいろやりましたね」

 マンガを読んだり、アニメを観たり、同人誌を楽しんでいたりする、いわゆるオタクとは相容れないような職業がテンポよく次々と飛び出した。思わず「オタクには珍しい人生だな」と呟いてしまった。何も隠すことなく、飾ることもなく今までに体験した職業を語ることができる姿に圧倒された。いや、圧倒されたというよりも、隠したり飾ったりすることのない語りに、何か新たな感情が湧いてきたのだった。それがなんなのか、私自身はまだ理解することができなかった。

「オタクだという自覚はあるのか、気になる」

「昔は……小学生の時は、とあるマンガが大好きだったんです。小学生の時、メッチャいじめられていて、まあ、現実逃避するために、とあるマンガを読んでいたんです。メッチャ好きやったんですけですけど、打ち切りになって、夢から覚めてしまってから、クソやなあと、マンガもアニメも大嫌いになって見なくなったんです。そっからは、インターネット。ふたばちゃんねるのお絵かき掲示板で、マウスを使って、ずっと左向きの女の子の絵ばかりを描いてました」

 小学生の時に大好きだったマンガのタイトルも、知るかバカうどんは、教えてくれた。けれども彼女は「書かんといてくださいね」と言ったので、ここでは記さない。かつて愛した作品をいまだに大切にし続けていることに、知るかバカうどんの持つ繊細な部分を感じた。それは何かが浄化されていくような感覚でもあった。

「なんで、左向きばっかり?」

「それしか描けなかったんです」

「何か描きたいがあったから、掲示板に投稿していた?」

「描きたいものは別になかったんです。ふたばのお絵かき掲示板って、殺伐としていて。なんか下手くそな絵でも、あげておいたら《死ね》とか《キモい》とか、メッチャ書かれるんです。それが、メッチャ嬉しくて。反応してくれるだけで、嬉しかったんです」

 私もたまに覗く時があるが、ふたばちゃんねるという掲示板は独特の世界である。そこでは、口汚く罵りあうことを楽しむのが当たり前だ。匿名の者同士がお互いを褒めることなく、罵りの言葉を交わし合うことで楽しむ、極めて特殊な世界なのである。さらに、知るかバカうどんが虜になっていたお絵かき掲示板には独特の「お約束」があった。掲示板に投稿するそれぞれが、コテハンを持ち、オリジナルのキャラクターを描き、互いのキャラを絡ませることで、新たな着想を得て絵を描き投稿し、また罵り合いを楽しむのである。

「……よう殺していましたね」

「自分の中で、キャラクター殴るとか殺すとかするのが楽しいと気づいたのはいつごろ?」

「小学5年生の時には。厨二病みたいな感じでしたね」

「今思い返して、目覚めるきっかけになった作品はあるの」

「いや、うーん作品よりはネットのほう。リアルの斬首動画とか。まだネットが普及する途中の時期だから、グロい画像がたくさんあって。《こんなのあるんや!》と感動していたんです」

「その頃に目覚めると、ゴスロリとかに目覚めちゃう女の子が多いと思うけれど」

「いや、ゴスロリは。きしょいなあと思ってました。ロリータは可愛いんですけど、ゴスロリはきしょいと思ってました。当時は太っていたんで、自分が来たら着たらボンレスハムになるやろうなと思うと、見るに堪えなかったんです」

 自虐的な言葉に笑みを浮かべた。それがスイッチになったのか。たった今、思い出したように、かつて自分が心を躍らせた作品を語り始めた。

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