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『ボコボコりんっ!』知るかバカうどん(メディアックス)

 取材は、いつも日常の中からはじまる。

 4月、最新のマンガとライトノベルを求めて、週に一度は訪れている秋葉原のKブックスで、私は1冊の本に出会った。土曜日の日中、新刊が出版社と日付別にずらりと並ぶ18禁コーナーは大勢の人でごった返していた。広い店内で、その一角だけはいつも、大小を問わず一般の書店では見ることのできない、独特の空気が流れている。幾人もの男性が自分の嗜好にあった作品を求めて、平積みされた単行本の一番上に置かれた見本のページをめくり、じっくりと吟味しているのだ。狭い通路は、すれ違うだけでカバンも身体もぶつかってしまうほど混雑しているが、お互いに気にしない風を装いつつも譲り合い、一時の快楽のための作品を求めていた。湿り気を帯びていながら、張り詰めた空気。時折、迷い込んだ外国人観光客の、あっけらかんとした聞き取れない言葉が耳に飛び込んでくる。その瞬間、熱心に本を吟味していた者たちは心が乱され、それまでにはなかった気恥ずかしさを味わうのだ。

 そんな空間で、まだ春だというのに熱気を帯びたほかのお客たちに辟易しながら新刊を眺めていた私は、平積みされた中から、ふと1冊の単行本を手に取った。

 妙なタイトルだった。

『ボコボコりんっ!』

 オビに大きく白抜きで印刷された「完全凌辱」の4文字の下に、黄色い文字で横一直線に「知るかバカうどん」という著者の名前が記されていた。

 その本を手に取ってしまったのは、その本だけが独特の雰囲気を持っていたからである。18禁コーナーに並ぶ単行本の表紙に描かれるのは、どれも男性の欲望を喚起するために肌を露出したり、扇情的なポーズを取る女性たちのイラストだ。その中にあって、この本だけは違った。タイトルが示すようにボコボコに殴られた女の子が描かれていたのだ。

 オビの裏表紙側にはアダルトグッズの広告が掲載されていた。

『知るかバカうどんプロデュース 四肢切断オナホール 純潔だるまりっじ』

 数日前に、ネットで偶然そのグッズを紹介する記事を見かけたのを思い出した。近年、アダルトグッズには、様々な奇をてらったものが増えている。だが、男たちに凌辱され手足が切り落とされた少女をイメージしたこのグッズは「マジキチ」。すなわち、度を越えて異常なグッズだとして、話題を集めていたのだった。

 この単行本が、18禁マンガの中で1年に1冊程度、極めてまれに登場する、エロよりもグロに重きをおいた作品であることは、自ずと想像できた。きっと「実用」には使えまい。けれども、話のタネにはなるはずだ。そんなことを考えながら、中身を確認することもなく平積みの上から3冊目あたりを抜き取って、カゴに放り込んだ。

 これまで様々なジャンルのマンガを読んできた自負はあった。中でも、18禁作品の、それも特に読者が限られるようなマニアックなジャンルの作品には、なぜかずっと興味を惹かれ、そうした作品を見つけるたびに常に心を躍らせてきた。

 なぜ、自分がそうなのかを考えると、エロだかサブカルだかわからぬ特殊エロマンガ誌だった『フラミンゴ』(三和出版)を愛読していたことを思い出す。そもそもが、人生で最初に買ったエロマンガ雑誌が『フラミンゴ』だった。たまたま、その号に掲載されていた女流SMの大家・海野やよいが描いた、SカップルがM女を飼って好き放題に調教し妊娠させる作品は、まだ地方都市で、悶々としながら生きていた私に、人間の想像力と欲望には限界値がないことを教えてくれた。出発点がそれだったから、自然にレール敷かれてしまったのだろうか。グロマンガの世界では、もっとも知られたマンガ家である氏賀Y太の作品も、ほぼ読んできた。

 あるいは「キエフで被曝した私」やら「片輪」やらが登場しまくり、どこかで見たようなマンガやアニメのヒロインを責め苛む作品を描いていたエル・ボンデージ(牧村みき)の単行本は、中学生の時に偶然手に入れて以来、今ではほぼすべての作品が本棚に並んでいる。それが好きだからという情念だけで、今も本業の傍ら「被縛社」というサークル名でコミックマーケットで欠かさず新作を発表し続けるこのマンガ家には、尊敬の念すら抱いている。

 そうした読書体験を積み重ねてきたがために、実用性とは一線を画した、特殊な18禁作品群に通じている自負はあった。

 だから、『ボコボコりんっ!』を手に取った時、私は《マンガに通じた俺様が、価値ある作品か判断してやろう》という驕りに満ちていたのだった。

 しかし、そんな《上から目線》は、表紙をめくってわずか3ページで打ち砕かれた。

 冒頭に収録されていたのは「嘘もつかない純粋な存在」というタイトルの短編だった。

 この作品のヒロインは、知的障害者の同級生の「お世話係」を押しつけられている委員長。夏休みだというのに憧れの男子と遊ぶこともできず「お世話係」として海水浴に同行させられた彼女は、その同級生に排泄姿を覗かれた挙げ句に強姦されてしまうのである。そして、残酷な物語は「中の精子出さなきゃ」と性器を掻きむしる少女の姿と共に、何も救いがないままに幕を閉じる……。

 単に陰惨さに驚いたのではない。なぜか、読者に過ぎない自分自身が傷つけられ、汚され、絶望の奈落に堕とされてしまったような気持ちになった。

 ページを進める手は止まり、動かなかった。

 次の作品へと読み進めることに、何かわからない恐怖を覚えた。これまでも、手にした作品が予想外に陰惨で驚いた経験はあった。たとえば『無限の住人』で知られる沙村広明の『ブラッドハーレーの馬車』(太田出版)――年に一回、孤児院から身請けされた少女たちが、刑務所の囚人たちの慰み者になるおぞましい世界を描いた連作――を、最初に読んだときには、随分と陰鬱な気分になったことを記憶している。

 しかし、知るかバカうどんの描く世界は、そうした陰鬱さとも違う得体の知れないもので、私を包み込み押しつぶした。今まで読んできたグロマンガでは、読者には客観的な神の視点が与えられていた。だから、劇や映画を観るように物語を追っていけばよかった。けれども、この作品はまったく違った。読者に観客であることを許さず、読者である私を物語の当事者へと引きずり込んだのである。

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クラスの委員長が知的障害者の同級生にレイプされる姿を通して、読者は社会的な体裁と本音とを問われる(『ボコボコりんっ!』知るかバカうどん「嘘もつかない純粋な存在」より)

 土曜日の深夜だった。どうしようもなく重いものを抱えた私は、iPhoneを手に取り番号を探した。知るかバカうどんの作品を掲載している18禁雑誌『コミックMate L』を発行している一水社の森田裕介は旧知の間柄だった。

 読者のために一寸説明しておくと、ひとつの出版社の中に複数のグループ会社が存在しているのは、出版業界ではよくある形態である。この会社の場合、掲載誌の発行元である一水社、単行本の発行元であるメディアックス、さらにグループの曙出版など複数の会社が、神楽坂にあるオフィスビルのワンフロアに同居している。

 5コールほどで電話に出た森田に、何を話そうかと思い私の口から出たのは「いくらなんでもやり過ぎではないか」という、ごく月並みな問いかけであった。

「いやいや、“表現の自由”をテーマにしているキミがそんなことを言うなんて……」

 土曜の深夜に、突然そんな電話をされた森田も困惑しているようだった。

「こういう作品だって世に送り出すことができるのが“表現の自由”なんじゃないのか」

 森田は「それに」といって、言葉を続けた。

「ちゃんと配慮して、18歳未満購入禁止の自主規制マークもつけているわけだからさ」

 モヤモヤした会話の中で、作者が女性であることや、最近上京して来たことを知った。

【秘録的中編ルポルタージュ】初単行本『ボコボコりんっ!』女性マンガ家・知るかバカうどんの衝撃と圧倒「私、つきあった男には必ずボコられるんです」のページです。おたぽるは、マンガ&ラノベhentaiインタビューボコボコりんっ!昼間たかし知るかバカうどんの最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

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