小学館の看板雑誌「コロコロコミック」2018年3月号で、チンギス・ハンの肖像画に落書きするという内容が、侮辱であると抗議を受け、販売中止と謝罪に追い込まれた問題。これは、予期しなかったトラブルなのか。問題をめぐって、編集サイドのクレーム対応能力の劣化も指摘されている。

「文庫とコミックは<差別・不適切表現>の宝庫だと思え!」

 そう章タイトルで記しているのは、小学館で編集総務部長を務めた堀田貢得の『編集者の危機管理術』(青弓社)。この本では「差別・不適切表現が発覚すると人権団体に<抗議・糾弾>される場合がある」「糾弾にいたれば、担当編集者、編集長、担当役員は絶対に逃げられない」として、人権団体や障害者団体などから抗議された実例が記されている。

「人権に絡む問題や、民族・宗教などの尊厳を毀損すること。病気を揶揄するような表現には、細心の注意を払わなくてはならないのは、出版社にとっては基礎中の基礎のはずなのですが……」

 そう話すのは、ある大手出版社のOB。たいていの大手や老舗と呼ばれる出版社は、過去の膨大な抗議を踏まえて表現には細心の注意が払われている。

「編集段階で『この表現は大丈夫か』と考えた時には、編集長、さらには、編集総務などに確認して判断を仰ぎ協議するのは、ごく当たり前のことです」(同)

 だが、今回のケースでは、そうした協議に諮ることなく掲載され、抗議されることになってしまった。つまり、編集サイドでは、チンギス・ハンの顔に落書きすることが、抗議される可能性のある表現だと、まったく考えていなかったのだ。

 前出の出版社OBは「編集者の抗議に対するスキルは低下している」と指摘する。その理由は、団体に抗議されるケースが減ったことだという。

「かつては、人権団体や障害者団体による組織的な抗議活動は盛んに行われていました。私自身も確認会や糾弾会へ出席したこともありますし、そこまで至らなくても、呼び出しを受けたことは無数にあります」(同)

 ところが、近年ではそうした団体による組織だった抗議活動は、稀だ。

「かつての抗議や糾弾というものは、実際に顔を合わせて行われる対面均衡でした。ところが今では、抗議の主流はネットで匿名で行われるものになっています。編集者自身が、不適切な表現をするとどういうことになるのか、我が身を持って体験することができなくなっているんです」(同)

 過去の人権団体や障害者団体の抗議や糾弾の手法には、さまざまな評価がある。とはいえ、それが表現する上での「覚悟」を醸成していたのも事実。SNSでの誰とも知れぬ発言を相手に、そうしたスキルを学ぶことはできないのか。
(文=昼間たかし)

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