早い話、所属先を失った議員がかりそめに身を置く場として以上の存在理由がない政党。自民党から、新党日本、改革クラブと時勢におもねって政党を渡り歩いてきた、代表の荒井。この参院選で続投は危うかった。起死回生の手段として女優の高樹沙耶を候補者と擁立してはいたが、幾ばくか注目を集めていた程度だった。

 大抵の有権者にとっては名も知らぬ政党。むしろ、批判に晒されていた舛添要一都知事(当時)が代表をやっていた政党として、聞こえは極めて悪かった。

「私を支持してくれる有権者との約束の中で、ぜひ全国で活動をという意志を、理解し受け止めてくれたのが新党改革。ですので、私自身、新党改革から出ざるを得ない……出していただいたわけです」

 あくまで名簿に加えてもらうだけで、新党改革のメンバーとなるわけではないという、奇妙な構造。とにかく、いかなる手段を用いてでも比例区で出馬をしなくてはならない。そんな意志を貫いた結果が、この選択であることは明らかだった。運よく当選できるのは、名簿に記載された10人のうち一人くらいだろう。ならば、オタク票を集めて名簿に加えてくれた荒井を押しのけて当選してやろうじゃないか。そんな意志もちらついていた。

 慌ただしく始まった選挙戦。以前から話していた通り、選挙事務所として借りたのは秋葉原。末広町駅近くにある雑居ビルの1階だった。国会を出た後、すぐに教えられた住所を尋ねた。サッシの引き戸を開けると、がらんとしたフロアの中で坂井が一人で、床にあぐらをかいてパソコンを弄っていた。今や、オタクの街として知られる秋葉原。それだけでなく、交通の便のよさもあってかオフィスの賃料というのは軒並み高い。

「家賃、高そうですね」

「うん、短期で借りたから余計にさあ」

 そう話すうちに、レンタル業者の4トントラックがやってきて、オフィス用のデスクや棚を運び込んだ。瞬く間に、事務所としての体裁は整った。

 翌日から事務所は、本格的に動き始めていた。博打とはいえ、山田は手堅い票を固めようと、めまぐるしく飛び回っていた。事務所のホワイトボードの行動予定の欄には、様々な企業の社長の名前が記されていた。

 企業経営で成功し、様々な講演にも呼ばれる山田。ゆえに製造業の世界では「山田のファン」という人々がいるのだ。そうした業界の票を固めた上で、海とものとも山のものともつかないオタク票を積み上げていく。そんなことを考えている風に見えた。

 山田が出かける一方で、事務所には来客もひっきりなしだった。

「表現の人たちは、家から出ないんじゃあないでしょうか」

「そんなことは、ありませんよ」

 ある製造業関係の来客の正直な言葉。同席していたスタッフが、山田よりも先に打ち消す言葉を口にした。その声は、山田に比べるとどこか自信なさげに聞こえた。

 どれだけ票を固めることができるのか。まず、正攻法の部分に山田は心を砕いていた。日中は、自分で車を運転して事務所にやってきて、方々を挨拶に飛び回る。夜は事務所に戻ってきて毎日ニコ生というスケジュール。選挙というお祭りムードと緊張感が独特の空気をつくりだしていたものの、不安は尽きなかった。

 今は都民ファーストの会の旗振り役となった、都議の音喜多駿がニコ生のゲストとしてやってきた時のこと。放送を終えてから、今ではよく知られるようになった、政治家とは思えない軽いノリで音喜多が話し始めた。

「荒井さんが落ちて、当選しちゃうんじゃないの~」

 笑い話のつもりで話しかけたのだろうが、存外に山田の反応は鈍かった。

「7万票かなあ……改革で120万票は欲しいなあ……あの障害者団体が5,000票あって……」

 会社の会議で、売上見込みを話し合っているような口調で山田は話した。そして、ハッと気づいて話題を変えた。

 意を決して立つというには、あまりにも紆余曲折がありすぎた。触れるものが、すべて燃え出すような熱気を帯びるには、時間が足りなかった。


■「そんなもんをメモして、どうするの?」


 6月19日に開かれた事務所開きに集まった支持者は40人ほどだった。事務所に一歩足を踏み入れると、それまで体験した選挙事務所とは、まったく違う空気感が流れていた。カルチャースクールのようなものといえばいいだろうか。それまでも、山田の開く集会に来る人々の中にあった、山田の取り組む「マンガ・アニメの表現の自由」の活動を聞くことで、自身の抱えている不安を埋めたいという気持ちが混ざり合った色。それと同じような色が、集まった人々を包み、シンボルカラーのマンダリン・オレンジ……スタッフの着ているポロシャツの色と混じり、あたりを鈍色に塗りつぶしていた。

 正直なところ、私はこれは取材に値するのだろうかと自問自答した。事務所開きの冒頭で、選挙スタッフの紹介があった。一人一人、名前を呼ばれて自己紹介をしていく。これから密に取材をしていくならば、毎日顔を合わせることになる顔ぶれである。遊説隊長は、稲葉玲子……運転手は小池……うぐいすは、熊谷に大島……大島は眼鏡。ネット担当は鈴木……。それぞれ、名前と特徴とをノートに書き留めていると、隣に立っていたオタク向け同人誌の書き手が、不思議そうな顔をして声をかけてきた。

「そんなもんをメモして、どうするの?」

 ギョッとして、その男のほうを見ると、私が必死にメモを取っている意味が、本当に理解できないようであった。「はあ」としか言葉を返すことができなかった。これから取材をしていくのだから、それぞれの人の名前を覚えておくのは当然のこと。それは、取材云々以前のマナーだと思っていた。

 確かに山田にインタビューをして、そこで話された言葉を、話し言葉から書き言葉へと収録すれば記事は出来上がる。誰が書いてもかまわない凡庸なモノが。単に山田の話したことを垂れ流すだけの提灯記事。

 それを嬉々として垂れ流す御用ライター。これまで山田が取材を受けているいくつもの記事を見て、なぜ、みんな決まりきったことを聞き、テープ起こしを整理しただけの文章を記事として公開していくのか。そんな作業に疑問を抱かないのか。

 でも、この人たちは本当に、そんな「作業」の繰り返しに疑いを抱かない根っからの御用ライター。それで「業界」の中に、自分の立ち位置をつくって満足をしたいのだ。

 そんなものを見てしまった結果、熱心に取材をしてやろうという気が沸いてきた。支持者のみならず、取材といえば、そんな媒体が寄ってくるばかりの山田はどのような広報戦略を用い、限られた時間の中で支援を広げていくのだろうか。もしかすると、どこかの瞬間で、突然人の心が熱く燃え上がるのではないかと。それを見たいと思った。

 事務所を取り巻く冷たい空気は、容易には変わりそうにもなかった。事務所に支持者が続々と駆けつけていた。圧倒的に人手が足らないことを、山田はTwitterで繰り返し告知していた。ネットを通じて、山田は自身の政策を拡散し、家族から有権者まで投票を呼びかけることを、支持者に求めていた。そんな、家で寝転がって手軽にできることばかりではない。選挙活動に欠かせない選挙葉書の宛名書きと選挙運動用ビラの証紙貼りという重大な仕事があった。比例区の場合、選挙葉書は15万枚、ビラは25万枚。いずれも選挙が始まってから作業はスタートする。とりわけ、証紙貼りはすべてが手作業。だから、事務所によっては選挙期間中、ずっとボランティアによる証紙貼りの仕事が続くことになるという。そのために、山田は少しの時間でも事務所に来て証紙貼りを手伝って欲しいという呼びかけを繰り返していた。


■黙々と作業だけをするボランティアたち


 いったい、どれだけのボランティアが集まるのだろうか。

 選挙戦の始まった6月22日。山田事務所を訪れると。既に大勢の人が集まっていた。そのほとんどが「マンガ・アニメの表現の自由」を守ろうと訴える山田の主張に期待するオタクたちだった。

 多いときで30人あまりがいただろうか。ほぼ正方形の事務所のスペースは、その半分くらいをパーテーションで区切り、入口に近い方に長机や椅子が並べられている。一面は、山田が選挙中は毎日やると宣言していたニコ生のためのスペース。そのスペースを埋め尽くして、大勢の男女が黙々と証紙貼りをしていた。みんな、しゃべることもなく押し黙って作業をしている。

 集まっているのは、明らかにオタクばかり。いわば同じ目的を持つ「同志」であるはずなのに、会話をする者は少なく、ただ作業だけが続いていた。ここに来ているのはどういう人たちなのだろう。取材者の目線では、傍観者に寄りすぎて話をしにくいと思って作業に混じった。

 証紙を貼りながら、最近のアニメの話題などもしてみたが「ああ」とか「ええ」とかはいうものの、私のほうが作業をサボっている人みたいな目で見られた。

 作業が始まって何日目だったろう。隣で作業をしていた若い男性とこんな話をした。

「今日で何日目?」

「今日で2日目ですね」

「この作業は楽しい?」

「うーん、今日来て楽しくなかったら、もう来ないつもりで来たんですけど……」

「どうするの?」

「……微妙ですね」

 とにかく膨大な数の証紙を貼らねばならない。その作業に誰もが忙殺されすぎているようだった。ボランティアを監督しているのは、スタッフの今野をはじめ数人。特に自己紹介もなく「こんにちは、手伝います!」と次々とやってくるボランティアの相手に必死のようだった。

 さすがに、気になって今野に「指示している人の名前もわからないと、ボランティアの人も戸惑いますよ」といったところ「ああ、そうですね」と、ホワイトボードに名前を書き始めた。

【人物ルポルタージュ】29万票の金利~山田太郎と「表現の自由」の行方のページです。おたぽるは、マンガ&ラノベ出版業界事情山田太郎政治表現の自由の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

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