■繰り返される拍手と緊張と不安の時間


 ようやく、状況が変わり始めたのは午後11時を回ってからであった。

 NHKで、新党改革の得票率が0.8%になっていることが報じられた。それを見た、山田は少し安心したような顔をして、呟いた。

「意外とうかるなあ……」

 次の瞬間、支持者は拍手と歓声に沸いた。それは、山田の当選の可能性が見えてきた喜びというよりは、停滞していた時間が終わりゴールが見え始めたからだった。だから、山田の表情はすぐに硬くなった。

 午前0時を回り、ようやく比例区の開票作業が本格的に始まっているようだった。

 長らく議員秘書として、いくつもの選挙戦を経験してきた今野は、自身の経験から票が伸びる予感を感じていた。

「日本のこころに追いつけば、なんとかいくんだよな、これが……」

 落ち着かないのか、事務所の隅のほうをウロウロとしながら、今野は呟いていた。

 状況が変わらないまま、一度、休憩時間になった。集まった人たちは、お互いに持ち寄った食べ物や飲み物を交換して、一息をついた。私が持参したおにぎらずも、意外に人気だった。この雰囲気に、誰もが疲労と空腹を感じていたのだ。

 午前0時19分、新党改革の得票率が1%となると、また支持者たちの拍手が湧いた。これからどこまで票が伸びていくのか、期待のまなざしが山田に向けられていた。

「伸びるで、伸びるで……」

 事務所の隅で、今野が何度も呟いていた。

 そうした期待感は事務所の中だけではなかったのだろう。ニコ生の視聴者数は3万人を越えようとしていた。ここに来て、それまで煩悶としていた山田の表情が切り替わった。一転、精気を得た顔で山田はマイクに向かって語った。

「やるべきことはやった。応援はしてもらったし、結果を待つしかない」

 山田には、オタクにまで見放されて、泡沫候補で終わってしまうのではないかという、最悪の結果だけは去っていく予感があった。再び自分にチャンスが巡ってきた空気の変化を、敏感に感じ取っていた。もしも、ここから票が伸びていけば、どうしようもない敗戦の弁を述べる必要はない。当選……できないとしても、どれだけの票を獲得することができるのか。山田は自分のところに転がり込んできた手札をじっくりと吟味しながら、早くも未来のことを思い描いていた。

「今、開いているのは近畿の票。関東のは全然開いていないですよ……」

 午前1時前になり、今野が呟いた。

 そこからは、また中途半端な時間に戻ってしまった。大政党の名簿上位から、少しずつ当選者が決まっていた。テレビの選挙特番は、既に締めのトークになっていた。「改憲勢力」が圧勝した中で、今後の政局はどうなっていくのか。コメンテーターを交えた批評が続いていた。そのまま、午前2時30分。まだ、山田の当落は判然としなかった。

「九州と山陰が開いているみたいだけど、東京と大阪はまだ開いていないな……」

 今野は、かなり気分を高揚させていた。これまで、幾つもの選挙戦を体験してきた。それでも、山田が比例区で立候補するというのは、驚きだった。何しろ、なんの団体や組織のバックもないのだから。選挙の常道では、比例区というのは、組織票がある候補者のためのもの。長く大島九州男の秘書だった今野にとっては、それは常識だった。そこに、徒手空拳で挑もうというのだから、無謀ではないかと思っていた。その山田が、確実に票を積み上げている。それまでの常識が一変し、自分が今までに見たことがない未知の出来事を、運動の担い手として体験していることに、今野は興奮していた。


■落ちたら政治家は引退


 確実に票は積み上がっている。どうにも尻のむずかゆい時間。ふと、会場にいた支持者の一人が山田に質問をした。

「もし、落選したらどうしますか?」

 率直な質問であった。

「普通の人……民間に戻って仕事をするんじゃないかな……」

「次の選挙は?」

「3年後に、出るかどうかは、わからない……。表現の自由はどうなってるのかも、わからん」

「もう、政治家をやらない?」

「落ちたら政治家は引退……コミケは今後も出ていきたいけど」

 支持者たちが、サアッと「どうするんだよ?」といわんばかりの表情になった。深夜の疲労で、誰もがすっかり思考力が落ちていた。ぼうっとした頭で、山田も頭の片隅で考えていたことを、ぽろっと漏らしてしまったのだと思った。急に、どんよりとした、居心地の悪い空気がに包まれた。そのことに気づいたのか、山田はいった。

「続けるも続けないも……選挙の結果で……」

 いまだ、わずかな望みに運命を託しながらも、身体の疲労が緊張感を奪っていた。山田のトークも短く、言葉は乱暴になっていた。

 開票率の伸びに反比例して、次第に当選の望みは消えていきつつあった。数時間前の、拍手に彩られた期待も薄れつつあった。

 また、隅のほうで今野が呟いていた。

「おおさか維新から出ていればなあ……。最悪でも、日本を元気にする会に戻って、人数を揃えていれば……」

 私が、首を縦にふって相づちをうつと、今野は話を続けた。

「あれは、敵前逃亡だったよ……これだけの才能のある人なんだから人も集まる。なんとか、なって欲しかったなあ……」

 選挙のベテランとして、今野は早くも当選の望みは去ったと思っているようだった。けれども、秘書としての長い経験ゆえにだろうか、それを微塵も残念なこととは思っていないようだった。この敗戦によって、すべてが終わるのではない。ここまで、期待させる候補者であれば、また復活する機会はあるはず。そのためにも、どれだけ票が積み上がるのかを見たい。今野は、そう考えていた。


■20万票に迫り、色気が噴出した瞬間


 時計の針は午前3時45分を回っていた。気がつけば、山田個人の得票数は10万をはるかに超え、20万に迫ろうとしていた。もちろん、比例区では、それだけの得票をしても当選にはケタが足りない。ところが「政治家を引退する」といっていたはずの山田は、一転して、色気を見せる言葉を呟き始めた。

「20万票いったら一人政党……いや、そういう人なら欲しいという政党がいると思うんだよなあ」

 支持者から、声がかかる。

「福島みずほさんを超えてる……」

「福島さん、声がかかるだろうなあ。考えが違うんだよな、考えが」

 20万票が近づいた午前4時頃前になると、いよいよ山田は、不安や暗さを拭いさり、何かの期待を感じ取っていた。

「20万超えたら、色気が出てくるよ。落ち武者として生き残るか……」

 もはや、当選の見込みはないのはわかっていた。けれども、積み上がる票が、身体を疲労や倦怠感から次第に回復させていた。それは、単に得票数が多かったからではない。自分の考えたネット選挙の手法が完全に図を得ていたからだ。

 オタクをメインターゲットにする。そのために、大枚をはたいて借りた秋葉原の事務所。秋葉原を離れたのは、わずかに一日。名古屋と大阪のオタクが集まる街に演説に遠征した時くらい。それ以外は、秋葉原を拠点に街頭演説。休むことなくリアルタイムでネットで呼びかけ続けた。Twitterで、自身の主張を開陳しニコ生で自分の声をダイレクトに有権者へと届ける。ネガティブな発言をも、危機感に置き換え、宣伝材料として支持者を煽った。それが、果たして本当に上手くいくのだろうか。それは、大きな博打であった。もしかしたら、ネットのわずかな意見だけでなく、本当にオタクが揃って手のひらを返すのではないかという恐れもあった。ネットでは勢いがあるとはいえ、実際に事務所を訪れてボランティアに参加したり、演説を聴きに来るのは少数に過ぎない。

 ……でも、自分の思い通りにチャレンジした選挙の手法は確実に成功していた。落選は確実である。まだやり残したことがあるのに、議員の職を全うすることができないのは辛いことだ。それでも、この得票数を利用すれば、与党でも野党でも下には置かない扱いをするだろう。惜敗した有力候補。次回は、ぜひウチの党から出馬を……なんて話も来るだろう。それを、どのように利用して、自分の政策に実行力を持たせればよいのか。単なる落選者とは違う立場に、自分がなることはできるのだ。

 止まることなく、どんどん積み上がる票の数に、なおも興奮をしていたのは今野だった。

「自動車関係の労組の組織票は超えている。これは、電力関係の組織票に迫っているよ……」

 午前4時47分。最新の開票速報は、山田の得票数が20万票を超えたことを報じた。興奮している自分を見せてはならないとばかりに、山田は冷静になろうとしていた。例え得票数が多くても、もはや落選であることに間違いはない。なればこそ、ちゃんと目を覚まして言葉を選びながら話さなければならない。明日からのためにも……山田はぐっと気持ちを引き締めていた。

「活動を続けたいが、どうしてよいのか、冷静に考えていきたい」

 冷静に考えようとしても、増える一方の票の数が、それを邪魔していた。

【人物ルポルタージュ】29万票の金利~山田太郎と「表現の自由」の行方のページです。おたぽるは、マンガ&ラノベ出版業界事情山田太郎政治表現の自由の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

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