長考師『救いをこの手に』作者の人生が行間からにじみ出る怪作 の画像1
『救いをこの手に』長考師『救いをこの手に』作者の人生が行間からにじみ出る怪作 の画像2(長考師/ポニーキャニオン)

 何かと「ライトノベル作家」になりたい人に会う機会というのは多いのですが、けっこうげんなりするものです。もっともよく聞かれるのは「どういう作品を書けばいいと思いますか」。そして「まだ作品を完成させたことはないんですけど」という自己紹介も何度聞いたことやら。

 とりわけ、最近出会う「作品を完成させたことのない人」は、投稿サイトの批評に熱心であったりします。どこどこのサイトは、こういうタイプの小説が出版社の目にとまりやすいとか。あるいは、どこどこは著作権を放棄させられるからダメだとか。書いてから言えよ!

 この記事でもそうですけど、何か世の中に伝えたいことがあって書いているわけです。

 例えライトノベルであっても、世の中に伝えたいことがなければ書けないのだなと思っています。

 さて、これがデビュー作となる長考師『救いをこの手に』(ポニーキャニオン)は、ウェブサイト「小説家になろう」発の異世界ものです。「小説家になろう」発のライトノベルは増加する一方ですが、ほとんどは異世界もの。もはや、定番すぎて嘲笑の対象になっているような気もします。

 にもかかわらず、定番のジャンルであるはずの本作は、新たな感動を与えてくれました。

 物語は、デイトレーダーとして暮らす辰巳東吾が、突然パンツ一丁で魔物しか住んでいない無人島に放り出されたところから始まります。冒頭は、無人島での東吾のサバイバル。そして、経験値を積んだあたりで難破船がたどり着き、物語は進展していくことになります。

 物語そのものは「小説家になろう」に投稿されている異世界ものと、さほど差異があるとは思えません。にもかかわらず、この作品が評価を上げて商業化された理由はどこにあるのか。

 実は、この作品でもっとも読ませるのは、作者のあとがきなのです。だいたいラノベのあとがきというものは、読者への感謝の気持ち、あるいは、謝辞を述べつつ、ツッコミ待ち。誘い受けのような軽い文章が当たり前です。

 ところが、この作者は自分のリアルな人生に触れているのです。スポーツトレーナーをめざして独立までしたが、断念したこと。母親がガンになり、2年あまりの闘病生活の末に亡くなったこと。

 それは、世間の中ではごく当たり前に起こっていること。悲しいけれど人間は誰も人生の挫折や、大切な家族の死からは逃れることができません。でもね、作者にとってはとても大切なことです。そうした、ままならない人生を投影したのが本作だと述べているのですから。

 自らの人生を投影した小説を描こうとすれば、私小説や「文芸」のジャンルになってしまうものかと思いきや、ラノベでやる人が現れるなんて!

 この作品が、ありきたりなのに、なにか重厚で読ませる雰囲気を漂わせているのは、まさにこの部分。行間に、書くことによって人生でなにごとかを成し遂げたい意志が伝わってくるからです。ライトノベルであろうとも、作品を通じて問われるのは作者自身の作品に対する態度なのだと、改めて感じました。

 次回作も頑張ってほしいものです。
(文=大居候)

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