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『金属バットの女』
(ちゅーばちばちこ/HJ文庫)

 なんでもアリのライトノベルというジャンルに新たな可能性が投下されたとでもいうべきか。第9回HJ文庫大賞の特別賞受賞作である、ちゅーばちばちこ『金属バットの女』(HJ文庫)。おそらく、多くの読者は途中で投げ出しただろう。

 後書き含めて200ページあまりと、ライトノベルとしては、薄い。でも、ライトノベルを読みたいと思って買った読者にとっては、この作品は苦痛以外なにものでもない。

 本の帯には「セカイを救う2人の殺戮系ラブロマンス」とある。特別賞の選評では、この作品を00年代的な「セカイ系」作品の系譜を発展させた作品のごとく記している。

 これらは、全部間違いである。

 おそらく選者は「セカイ系」という言葉以外に、語る言葉を思いつかなかった。それでいて「なんだかよくわからんがスゴイ」という感覚に囚われたのであろう。

 物語を綴るのは「俺」こと芦原幽玄の一人称。この世界には「試験官」なる怪物が出現していて、人類は億単位で殺されている。それでも日常が続く世界。

「俺」が家に帰ると、親父、かーちゃん、兄貴、妹、じじぃが、みんな殺されていた。「試験官」を金属バットで殺せるただ一人の少女・椎名有希によって。

 なんで家族が殺されたのか、理由もよくわからないまま「試験官」を殺す有希の姿。それに同行しながら、彼女を「好き」だと語り続ける「俺」の物語は進んでいく。

 物語は何も明らかにはしない。試験官は13体だというが、なぜ13体なのか。その出現する場所がわかっている理由も、金属バットで叩き殺せる理由も、何も説明しないのだ。

 とにかく、世界の存亡が2人の男女の人生と直結している。その物語ゆえに作品は「セカイ系」だと記されている。だが違う、この作品において物語は単なるオマケに過ぎない。

 そこに気づいた人は、一定以上の文学作品に触れた体験があれば「あれ、どこかで見たような作風だな」と感じるだろう。ジョイスの『ユリシーズ』か、あるいはニミエの『ぼくの剣』か、いやいや違う。セリーヌの『夜の果てへの旅』だ。

『夜の果てへの旅』は、最後まで読んだだけで自慢できるし、限られた人は尊敬してくれる。とりあえず枕にするには最適な長編小説だ。セリーヌが延々と書き記した虚無と、本作品の、世界も変わらず愛も成就せずのどうしようもなさは、どこか共通点を感じてしまう。だから、この作品を読んだ果てに、こんな想いが浮かんできた。

 ……これ、それなりの文学者がイタズラで応募したんじゃないだろうか?

 でもね、それは違うだろう。なぜなら、もしそこまでの作品力があれば、刊行から1月余りを経た今、もっと多くの賞讃と罵倒とが、溢れかえっているだろうから。その点で、なんだかよくわからんペンネームの作者の実験は、まだ成就していない。

 もしも、この作品を最後まで読み通して、わけがわからんけれども、異様なパワーを感じたならば賞讃ではなく罵倒の言葉をぶつけるべきだろう。

「どこがラノベだ」「意味がわからん」「金返せ」

 ネットという便利な手段を使って作者と作品が罵倒の洪水に見舞われることで、この作品は、はじめて作品として完成するだろう。

 きっとこの作者、次回作では異常に軽い学園青春ものとかを書くはず。
(文=是枝了以)

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