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 アニメという言葉は今さら説明するまでもないが、英語のanimate(生き生きとさせる、命を吹き込む)からきている。本来なら動くことのないはずの絵や人形に命を与えて動かすことをアニメーションと呼ぶ。このアニメーションという言葉の定義に従えば、これほどアニメーション化にふさわしい企画はないだろう。ノイタミナムービー「Project Itoh」は、34歳の若さで夭折したSF作家・伊藤計劃が残した3本のオリジナル長編小説をアニメーション化することで、伊藤計劃が脳内に思い描いた虚構世界を現実社会に再現しようという試みだ。伊藤計劃が衝撃的デビューを飾った『虐殺器官』、超高度医療社会を予測した『ハーモニー』、そして伊藤計劃の絶筆となった序章をもとに芥川賞作家・円城塔が遺志を受け継ぐ形で完成させた『屍者の帝国』の3作品が10月~12月に続けて劇場公開される。とりわけ「Project Itoh」の第1弾に、伊藤計劃と円城塔の合作である『屍者の帝国』を選んでいることに着目したい。

『屍者の帝国』はヴィクトリア朝時代の大英帝国の帝都ロンドンから物語が始まるスチームパンクもの。フランケンシュタイン博士によって死者を蘇生させる技術が開発され、肉体から抜け出した霊素(魂)の代わりに疑似霊素なるデータを入力することで、死者は“屍者”として蘇えるようになった。屍者たちは意志を持たないが、生者の指示に従い、産業革命の重要な労働力となっている。戦争も生者の代わりに屍者たちが戦っている。優秀な医大生ワトソンは英国政府の諜報機関から要請され、フランケンシュタイン博士が生み出した屍者第1号であるザ・ワン(フランケンシュタインの怪物)をめぐる冒険へと旅立つ。ザ・ワンは屍者ながら魂を宿し、自分の意志を持っている。ザ・ワンが持ち出したフランケンシュタイン博士の研究書類を見つけ出せば、生と死を隔てているものが何であるかを突き止めることができるはず。好奇心に突き動かされたワトソンは、護衛役の英国軍人バーナビー、記録係をつとめる無口な屍者フライデーと共に、インド、アフガニスタン、さらには日本……と奇想天外な旅を続ける。

 伊藤計劃はわずか2年という非常に短い作家生活の多くを病院の中で過ごした。体のあちらこちらに転移した癌と闘いながらの執筆活動だった。死の恐怖と直面しながら、猛烈なスピードで『虐殺器官』『ハーモニー』を書き上げた。そして死者の蘇りを題材にした『屍者の帝国』の序章を書き残した。作家として伊藤計劃から多大な影響を受けたという同期デビューの盟友・円城塔にとって、『屍者の帝国』の序章の続きを書き継ぎ、主人公ワトソンたちに旅の終わりの光景を見させることは亡き友に対する最大の供養だった。伊藤計劃の肉体は滅んでも、円城塔は『屍者の帝国』を書き上げている間、ずっと彼の存在を身近に感じていたはずだ。生と死を隔てる境界線は、必ずしも肉体の消滅とは限らない。

 伊藤計劃と円城塔が彼岸と此岸とのやりとりで書き上げた『屍者の帝国』に、アニメ版はさらに大胆なアレンジを加えている。原作のフライデーは旅に出るワトソンに英国政府が支給した従僕という設定だったが、アニメ版では生前のフライデーはワトソンの親友だったということになっている。無二の親友フライデーが若くして亡くなったことに悲嘆したワトソンは、墓からフライデーの死体を運び出し、国家が禁じている個人的な蘇生手術によって屍者として蘇らせた。だが、生前より21g(魂の重さ)だけ体重の減ったフライデーに疑似霊素を注入しても、かつてのように笑ったり、話し掛けたりはしてくれない。ただ、ワトソンの指示に従って、周囲で起きたことをノートに記録し続けるだけ。それでもワトソンはフライデーを手放せない。ザ・ワンが持つ研究書類が手に入れば、フライデーの魂も呼び戻すことができるかもしれない。ワトソンが未知の国々へ危険な旅に向かうのは、そのためだった。

 原作のエッセンスだけでなく、原作を生み出した伊藤計劃と円城塔との関係性も包み込むことをアニメ版は狙っている。聞き慣れない造語が飛び交い、歴史上の実在の人物とフィクション上の人物とが入り乱れる起伏に富んだストーリーだが、孤独な世界に生きる作家(もしくはクリエイター)という職業に就く人々にとっての“生と死”の意味を探る重層的な作品にもなっている。

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『屍者の帝国』と同じく、故人を蘇らせることを試みているのが『サイボーグ009vsデビルマン』だ。1998年に亡くなった天才漫画家・石ノ森章太郎の代表作『サイボーグ009』と、石ノ森章太郎のアシスタントを経て漫画家デビューを果たした今なお現役の鬼才・永井豪の大傑作『デビルマン』をコラボレーションさせている。ハリウッド大作『アベンジャーズ』では世界観の異なるアメコミヒーローたちがどう競演するのかが見どころとなっていたように、『009』の科学的設定と『デビルマン』のダークファンタジーな世界がどう融合するのかに興味を惹かれる。両作品を結び付ける接点は、意外と簡単なところにあった。009たちサイボーグ戦士たちが戦う“死の商人”ブラックゴースト団は、自分たちの利益に繋がることなら何にでも手を伸ばす。『デビルマン』の先住民族・デーモン族はあらゆるものを自分の肉体に取り込むことを特長としている。ブラックゴースト団とデーモン族が遭遇したことで、人間の肉体を強化したサイボーグ戦士たちよりもずっと強靭な悪魔サイボーグが誕生する。この忌わしいハイブリッドクリーチャーに、サイボーグ戦士たちと不動明ことデビルマンは戦いを挑むことになる。

『サイボーグ009』もまた未完のまま原作者が亡くなってしまった作品である。さらに言えば、石ノ森章太郎自身が亡くなった人への強いこだわりを抱いていた漫画家だった。石ノ森作品には度々美しいお姉さんが登場する。『幻魔大戦』『人造人間キカイダー』『HOTEL』など、石ノ森作品では危機的状況に陥った若者を心優しい姉が励まし、勇気づける。『サイボーグ009』の実質的なクライマックス「地底帝国ヨミ編」のラストシーンは、物干台で夕涼みしている若い姉弟が流れ星(実はブラックゴースト団を倒した009と002)に向かって祈りを捧げるというものだった。

 石ノ森作品に度々登場する“お姉さん”キャラクターのモデルとなったのが、石ノ森章太郎の実姉・小野寺由恵さんだ。漫画がまだ市民権を得ていない時代にあって、3歳年上の由恵さんは幼い頃から漫画家を目指していた石ノ森章太郎の最大の理解者だった。石ノ森章太郎が故郷の岩手から上京して「トキワ荘」で暮らすことができたのも、由恵さんが両親を説得したからだった。「トキワ荘」では弟の世話を焼き、赤塚不二夫や藤子不二雄(A)たちの憧れの存在となっていた。「トキワ荘」のアイドルだった由恵さんだが、持病の喘息が原因で急逝している。22歳の若さだった。石ノ森章太郎は近くの映画館で映画を観ていたため、最愛の姉の最期を看取ることができなかった。石ノ森章太郎はそれまで以上に膨大な量の漫画を描くようになり、作品の中にお姉さんを登場させる。フィクションの世界で、由恵さんを蘇らせようという想いだったのではないだろうか。

『サイボーグ009vsデビルマン』は純粋な石ノ森章太郎作品ではないものの、サイボーグ戦士たちやデビルマンと同等に“お姉さん”キャラクターが重要な存在となっている。“お姉さん”キャラクターの献身的な愛情が物語を大きく動かしていく。また、サイボーグ戦士もデビルマンも元は人間であり、人間はとても弱い存在であることを自覚している。そんな彼らには自分よりも大切なものがあり、それを守るために体を張って懸命に戦う。はかない命である人間の弱さを愛することが、デビルマンとサイボーグ戦士たちの力の源となっている。

 戦後の日本社会の写し絵として、目覚ましい発展を遂げてきたアニメーション文化。一見すると華やかなアニメーションの世界だが、魂のないキャラクターに命を吹き込むには尋常ではない労力を要する。長編アニメーションを完成させるために、生者はそれこそ命を削るような想いで作品に情熱を注ぎ込む。アニメーションとは死者を蘇らせるということ、そしてフィクションの世界を構築するということは、死者と対話するということに他ならない。すでにこの世を去った賢者たちの残した想いが、今の日本を豊かなものにしている。
(文=長野辰次)

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『屍者の帝国』
原作/伊藤計劃、円城塔 監督/牧原亮太郎 声の出演/細谷佳正、村瀬歩、楠大典、三木眞一郎、山下大輝、花澤香菜、大塚明夫、菅生隆之
配給/東宝映像事業部 10月2日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国公開
(c)Project Itoh&Toh Enjoe/THE EMPIRE OF CORPSES
※ 『harmony』は11月13日(金)より全国公開。『虐殺器官』は公開日未定
http://project-itoh.com


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『サイボーグ009vsデビルマン』
原作/石ノ森章太郎、永井豪 監督/川越淳 声の出演/福山潤、浅沼晋太郎、白石晴香、前野智昭、M・A・O、東地宏樹、小山剛志、水島裕、郷田ほずみ、岡村歩、早見沙織、日野聡
配給/ティ・ジョイ 10月17日(土)より新宿バルト9ほか全国で2週間限定イベント上映
(c)2015「サイボーグ009vsデビルマン」製作委員会
http://www.009vsdevilman.com

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