「日本ホラー大賞短編賞」受賞の小説家・田辺青蛙によるオススメブックレビュー。

 タブーとされるものには甘美な魅力がある。禁止されるからこそ見たい、知りたいという欲求がわき起こる。この本は、さまざまな理由で封印されてしまった漫画について書かれている。

 漫画家は思いもよらないところから非難の的になり、そのまま消えていった者もいれば、クレームに抗い戦い続けた者もいる。栄華を極めた漫画家が、一通の投書から転落の人生をたどることもあれば、批判をターニング・ポイントとして、全く違う作風の漫画を描いて成功した例もある。

 複雑に絡みあう著作権事情や、各種団体の主張。寸止めエロ漫画で直接的な性描写がないにも関わらず、教育上よくない、性を商品化していると言われて有害コミック指定を受けた上村純子『いけない! ルナ先生』や、背景のコマに著作権侵害があったかわぐちかいじの『沈黙の艦隊』。手塚治虫『ブラック・ジャック』の「指」は同級生が6本指を手術で5本指にしてくれと頼みに来るが、実はその男がテロリストだった......と展開していく内容なのだが、身体障害を扱うネタということで封印されている。

 指に関する規制のエピソードは他にもある。

 山口貴由『覚悟のススメ』は「4鬼!」といって親指を折り曲げて数を示している箇所を、指を伸ばしている手に差し替えられている。それならば『羊たちの沈黙』のレクター博士や、『シグルイ』(南條範夫原作・山口貴由作画)の岩本虎眼はどうなるのだと思うが、そちらは規制されていない。時代によって、規制の基準も変わってくるのだろうか。

 そういえば私の好きな妖怪も差別とは無縁ではなかったことを思い出した。『妖怪人間ベム』が、3本指から5本に訂正されたことは記憶に新しい。そもそも人間じゃないんだから、奇形も何もあったもんじゃないと思うが。

「片輪車」という妖怪は実際に差別語だとして忌避されてしまった。「片輪車」は片方の車輪ということで、人体の欠損を指した言葉ではない。

 私が妖怪の立場になったら、そんなことで自分本来の名前が消されてしまうのは、哀しく憤りをおぼえるに違いない。そもそも元の由来が分からなくなってしまうではないか。

 私のPN(ペンネーム)の青蛙は、蝦蟇(がま)仙人がお供として連れている三本脚の蛙から取っているが、これはマズイから別の蛙にしなさいと言われたらきっとケロケロと泣いてしまうだろう。

 日本の幽霊に足が無いのは、応挙の幽霊画が発端だと俗説で言われている。そのうち幽霊も足が無いのは差別につながると言われて、逆に足が書き加えられる日が来てしまうかも知れない。

 だが、これは現代でも確実に規制されるだろうと、思わせるようなエピソードも中には収録されている。例えば、沖さやか『マイナス』の「遭難クッキング」は教師が生徒と一緒に遭難し、空腹を覚えた為に、崖から落ちて重傷の女児を火にくべて食べる。

 しかも最後には教師はあっさりと道を見つけて助かり、まるで女児は食べられるエピソードを披露する為だけに登場したように見える。他にも赤塚不二夫『キャスター』の胎児を丸ごと練り込んだ胎児ピザは、黒い笑いを通り越していると言える。

 封印された理由はクレームだけではない、作画のトレースや盗作もある。豪村中の『メガバカ』は、なんと十を超す漫画のトレース疑惑が発覚してしまった大問題作で、金輪際この世に出ることはない。しかも、そのトレース元の漫画を探し出したのが、編集者ではなくネット上検証サイトだというのが時代を感じさせられる。

『美味しんぼ』(雁屋哲原作、花咲アキラ作画)の469話が問題視された理由は、山岡夫妻が双子の赤ん坊に、半熟卵と蜂蜜を離乳食として与えたことだった。蜂蜜はボツリヌス菌の芽胚が含まれていることがあるため、乳幼児に与えるのは危険で、半熟卵はアレルギーを引き起こす可能性があるので離乳食には不適切なのだ。

 秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の中川が、小銃を両さんと一緒に焼いて「天皇陛下バンザーイ!」というエピソードは「2ちゃんねる」のスレッドで見て存在は知っていたが、実際のコマを観たのは初めてだ。長寿連載ともなると、1つや2つ気がつかない内に消されてしまったエピソードがあっても不思議ではないのかもしれない。

 皆が知っている人気漫画の裏エピソードや、色んな大人の事情。当時の漫画家や出版社側からの意見も転載してあるので、規制やタブーの歴史だけでなく、この業界を知るうえでも貴重な一冊かも知れない。
(文=田辺青蛙/日刊サイゾー2009.11.09既出)

たなべ・せいあ
「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。12月に2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)が出版予定。

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